六月某日、土曜日、大安。

「……朝か」

土蔵で眠り込むこともなく、自室で目を覚ます。

なんたって、今日はセイバーの結婚式当日。

もう夏も近いとは言え、土蔵で眠って体調崩したりするわけにはいかなかったし。

布団から抜け出して、時計を見る。

―――8時45分、過ぎてる。

目の前の現実に、一瞬頭がフリーズする。

教会での式開始が、確か9時45分。

「うおわ寝過ごしたーーーー!!」

超特急で着替えを済ませ、慣れないネクタイを結びながら部屋を飛び出す。

それと同時に、廊下の向こうから走ってくる衛宮家在住の皆様方。

便乗して、俺も居間まで走る。


「なんでこんな日に限って全員寝坊してんだーーーーー!!!」


こうして、めでたいはずの一日は、大騒ぎとともに幕を開けたのだった。

































Mother,Father,Lover,and Married Knight

   第10話      by楓野









「もしもし衛宮ですけど!すみません、車3台お願いします!!」

桜が大慌てで藤村家に電話をかけている。

その横で、テーブルに鏡を置いてネクタイと悪戦苦闘する俺。

洗面所では遠坂が必死で髪をとかしている。

俺や遠坂、桜にライダーはここで着替えていくのだが、

アーチャーとセイバーは教会の方で着替えることになっている。

そのためまだ普段着で、本来なら二人は先に出発することになっていたのだが、

結局ほぼ同時に出かけることになりそうだった。

「はっはっは、大騒ぎだねえ」

「のんきに言うな親父!!位牌置いてくぞ!?」

俺の隣でぷかぷか浮かびながらヒマそうに言う親父。

位牌というのは親父の位牌で、家の外では位牌から半径10メートルにしか動けないのだそうだ。

「ん、士郎ネクタイまだ曲がってるよ」

「何回目だよこれで!?」

もう数える気にもならなかった。

結んでは解いて、結んでは解いて。

制服にネクタイがなく普段結ぶ機会もないので、どうも上手くいかない。

そうこうしてるうちに、

「ちわーーーす!!車持ってまいりやした!!」

玄関から、威勢のいい声が響いてきた。

それと同時に、セイバーとアーチャーが立ち上がる。

「ではシロウ、お先に」

「せいぜいネクタイを上手く結ぶのだな」

「さっさと行けっ!!」

一礼して去っていくセイバーと、皮肉を言い残してその後に続くアーチャー。

しばらくして、車の遠ざかる音が聞こえてくる。

「俺たちも早く行かないとな……」

「士郎、まだ曲がってる」

「どちくしょおおおおおお!!!!」

洗面所から戻ってきていた遠坂の指摘に、もはやヤケになりつつネクタイを解く俺であった。



藤村家の車に揺られ、教会に到着したのは9時30分過ぎ。

「……絶対カレンに嫌味言われるんだろうなぁ……」

その光景を想像し、ちょっぴりブルー入る俺。

「大丈夫じゃない?別に後がつかえてるってわけでもないんだし」

「開店休業状態って言ってましたよね……」

きっぱりと言い切る遠坂と、苦笑する桜。

二人ともこの日のためにあつらえたドレスに身を包んでいる。

ちなみに、俺も制服ではなくスーツ姿。

別に三人とも制服でもよかったのだが、遠坂の、

『セイバーの結婚式なんだから張り込むわよ!!』

という一言がきっかけで、きっちり正装するハメになったのだった。

おかげでネクタイと闘うハメになったのは知っての通り。

「親父は楽そうでいいよな」

「まあ、着替える必要もないからねぇ」

隣でのほほんと笑っているのは、実体化してちゃんと地に足をついている親父。

普段の着崩した服装ではなく、俺と同じ礼服を纏っている。

なんでも服装はイメージ次第で自由自在らしく、準備する手間がないのだとか。

まったくもって羨ましい特技だ。

「士郎、私達セイバーの様子見に行くけどアンタどうする?」

「どうせ待っててもヒマだし……俺もアーチャーの様子見に行ってみるよ」

「じゃ、また後でね」

そう言って、遠坂と桜はうきうきとセイバーの控え室へと歩いていった。

「僕は礼拝堂で待っているよ、士郎」

「ん、わかった。じゃ、行って来るよ」

親父と別れ、俺もアーチャーの控え室へと足を向けるのであった。



「ええい、放さぬかランサー!!我の行いに水を差すな!!」

「させるかテメェ!!大体テメェ逃がすと俺までボコられるんだよ!!」

控え室前。

狭い廊下でダッシュしようとしているギルガメッシュと、

タキシードの襟首ひっ掴んでそれを引き留めているランサーの姿があった。

「……何やってんだ二人とも」

「お、いい所に。このバカ止めるの手伝えや」

そう言って、ギルガメッシュのベルトまで引っつかむランサー。

それも気にせず、猛スパートをかけようとするギル。

「放さんか貴様ら〜!!セイバーの艶やかかつ慎ましやかな肢体が我を呼んでおるのだ〜!!」

「お前往生際悪すぎ!!」

「諦めたんじゃねえのかオイ!!」

「愚か者、諦めたからこそではないか!!

  式が終われば名実ともに我のものではなくなるのだから、

  その前にセイバーの全てをこの眼に焼き付けようとだな……」

「変態かテメェは!!」

「それ以前にセイバーはテメェのモンじゃねえだろ!!」

じたばたじたばた。

欲望と漢の浪漫を惜しげなく晒して咆哮するギルガメッシュ。

天の鎖にも勝らんとする勢いでそれを押さえつける俺とランサー。

狭い廊下の上に、全力で騒いでいるために当然うるさくなり。

まるで堪忍袋の緒が切れたように、扉が何の前触れもなく勢いよく開いた。

「やかましいぞ!一体ここを何処だと思っている!!」

扉の開く音が、怒声によってかき消される。

その怒声の主を見た瞬間、俺達は固まった。

そして。

































『似合ってねーーーー!!!』

































見事に声をユニゾンさせて、俺達は指差して笑い始めた。

「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃ……!!な、何のギャグだアーチャー!!」

「ひーひー……死ぬ!!マジで死ぬ!!笑い死ぬ!!」

「くははははは……この王をここまで笑わせるとは、やるではないか贋作者フェイカー……!!」

「……何しにきた、貴様ら」

もはや床を転げ回り、腹を抱えて呼吸ができないほどに笑う俺達と、

それを見下ろしながら冷たく言い捨てるアーチャー。

アーチャーの視線すら気にならない。

それほど、アーチャーの白スーツ姿は似合っていなかった。

褐色の肌と白い生地が完全にミスマッチになってしまい、

髪の色がなまじ同じな分、余計に肌の色が浮き出てしまうのだ。

なんつーかもう宝具級の面白さである。

もしアーチャーの戦闘服がコレだったら勝てなかったに違いない。

結局、直視できるくらいに慣れるまでには5分ほどを要した。

直視するとどうしても笑ってしまうので微妙に視線はズラしているが。

「つーか似合わなすぎ、アーチャー」

「なあ?主役がこんなんで大丈夫か今日の式?」

「やかましいわ貴様ら!!」

俺達の正直な感想に、鋭くツッコむアーチャー。

「私とて気にしているというのに……」

気にしてたのか。

ブツブツ呟くアーチャーをよそに、視界の隅でこっそりと何かが動いた。

不審に思って振り向いてみると。


「ぬ!?見つかったか!!」


王の財宝を開いて、そこに入り込もうとしているギルガメッシュの姿があった。

「何やってんだテメェ!!」

「ふははははは、もはや遅いわ!!とうっ!!」

ランサーが怒鳴ると同時に、ギルガメッシュは空中に浮かぶ渦の向こうへと消え去った。

「あんの金ぴか!!また狡っからいこと思いつきやがって!!」

「絶対セイバーのトコ行ったぞアイツ!!」

「何!?そうはさせるか、行くぞ貴様ら!!」

ノリノリで走り出したアーチャー。

だが。

































『待てって』

































ハモりながら二人掛かりで襟首を引っ掴まれ、急停止した。

というか首が絞まった。

ついでに襟を支点にして、体が90°回転する。

「ごふぁ!!?」

……重力に逆らえず、アーチャーは背中から落下した。

「何のつもりだ貴様ら……」

首が思いっきり絞まったためにちょっとガラガラになった声で呟きつつ、

血走った目で俺とランサーを睨んでくる。

「あのな、向こうにゃ嬢ちゃんやらライダーやらが待ち構えてんだぞ?」

「おまけに、標的はセイバーだしな。ほっといても見れやしないって」

あと、致命的なうっかり癖があるし。

「む……すまんな、少々取り乱した。

  そうだな、妻になる女性を夫たる私が信じなくてどうするかと――」

































『キャァァァァーーーーーーーーー!!!』


「今行くぞセイバァーーーーーーー!!!!」

































アーチャーの台詞を遮って絹を引き裂くような女性陣の悲鳴が聞こえると同時、

ソニックブーム一歩手前の風圧を残してアーチャーは走り去っていったのだった。

というか妻を信じるんじゃないのか夫。

「……俺らも行くか?」

「一応、見に行くか」

かなり力を抜きつつ、だらだらと歩きながらセイバーの控え室に向かう俺とランサーであった。



〜Gilgamesh Side〜

フハハハハハハ……!

贋作者に奴らが気を取られているスキに『王の財宝ゲートオブバビロン』を用いて脱出するという作戦は見事成功だ。

やはり我は人類最古の英雄王、機転も閃きも凡人共とはわけが違う。

後は『王の財宝』がセイバーの居場所に道を繋ぐのを待つばかり、か。

ハハハハハハ、楽なものだ。

所詮雑種どもには我を止めることなど不可能なのだ。

ふむ、常々思っていたことだが我は頭が良いな。

まあ王たるもの阿呆では務まらんから当然とも言えるがな。

更に我は王の中の王、英雄王。

そうなると我の頭脳はかつて存在したどの学者達よりも明晰ともいえるな。

フ……最高の財力に最高の武力、その上に最高の頭脳まで持って生まれてしまったか。

近世では三高などというらしいな……まさに我は優良物件。

その優良物件をにべもなく断り、あまつさえあのような地味物件などを選ぶとは……

……やはりセイバーにあの贋作者は相応しくない。

ここは我の魅力でセイバーを虜にし、そのまま式を挙げてしまおうではないか。

そうだ、それがいい。

何しろ我は前をはだけて歩いているとサインをねだられるほどの男であるからな。

それにこの国では式の最中に乱入した男が花嫁をさらっていくのが理想なのだとか。

フ……完璧ではないか。

贋作者は壁の花にでもしておいて、今日は我とセイバーの式としてしまおう。

よし、そうと決まれば早速ポーズと決めゼリフの練習をせねば!

時間はあまりないからな、やはり自然体でシンプルにズバッといくのがよいか?

いや、カッコいいポーズで芝居がかったセリフをサラリと口ずさむのも捨てがたいな……。

しかし我の魅力を引き出すにはもっとこうエキセントリックかつ野性的にだな……。

む!?なんだと『王の財宝』、もう着いただと!?

ええい、まだポーズとセリフが決まっていないというに!!

こら、押し出すでない!!もう少し居させぬか!!

む、なんだ『天の鎖エルキドゥ』。

なに?貴様を使え?こう軽く巻きつけて?

決めゼリフは……ふむ、良いではないか!!

よし、『天の鎖』、これで行くぞ!!やはり貴様は我が友だ!!


友をその身に纏いつつ、我は意気揚々と『王の財宝』から飛び出した―――







あとがき


更新止めてすみませんでした。

書くのにえらく苦労しました。

でも、久々に割りと納得いくギャグが書けました。

ギルガメッシュの一人称書いてたら、物凄い暴走しました(笑)。

ちなみに、ギル様の三高とか結婚式とかの知識は全て言峰から得た知識のため、

所々かなりの勢いで間違ってたりします(笑)。


結婚式は2回か3回に分けて書きます。

次回、ギルガメッシュのセイバー奪取作戦は成功するのか!?(笑)





それでは、次回もイェア♪とヨロシク!!



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