さて結婚式も終わって数ヶ月は何事もなく過ぎた。

そりゃまあ時々キャスターが来てあの手この手でセイバーの子供を嫁に取ろうとするし、

ランサーがきて冷やかしたり、何故か小次郎が育児関係の雑誌を山ほど持ってきたりはしたけれど。

その他はおおむね平和に日々をすごした。

そうなれば当然セイバーのお腹の中の子もすくすくと育つわけで。

そろそろ十月十日経とうかという頃。




唐突に、それはやってきた。



































Mother,Father,Lover,and Married Knight

   最終話      by楓野









「総員起床ォォォ!!!!!」


ガンガンガンガンガン!!!!!!


真夜中に突如として響き渡った大声と金属音に、強制的に意識が覚醒させられた。

慌てて部屋の外に出てみれば。


「総員起床ォォォ!!!

 総員速やかに起床ォォォ!!!!!」


ガンガンガンガンガン!!!!!!


アーチャーが鬼気迫る表情で叫びながらフライパンにおたまを打ち付けている。

それを見た瞬間。


「うるせーよ!!!!!!」


―――アーチャーにも負けぬ大音量で絶叫し、


ドゴォッ!!!


―――同時にドロップキックを食らわせていた。

「ガフッ!!」

結構盛大に吐血して廊下にすっ転んだアーチャー。

フライパンとおたまが廊下に転がる。

「一体なんなんだこの真夜中に!!近所迷惑だろ!!……で、どうした」

怒り心頭のところを何とか抑えてアーチャーに聞いてみた。

「……セ……セイバーが……」

ドロツプキックのダメージが思いの外大きかったらしく、息も絶え絶えに言葉を搾り出している。

「……セイバーが……産気づいた…………」

―――静寂。

アーチャーの言った言葉の意味が理解できずに脳が一時停止する。

そして。


『総・員・起床ォォォ!!!!!』


完全にアーチャーと同じ精神状態になった俺の雄叫びが家中に響き渡った。




「ちょっとセイバー大丈夫!?」

「セイバーさん、気をしっかり!!」

「ヒッヒッフーよヒッヒッフー!!」

「おい予定よりちっと早えーじゃねえか!!」

はい、アーチャー同様ドロップキックを食らってボッコボコになった衛宮士郎です。

只今、衛宮家の居間は大変な騒ぎになっております。

セイバーを中心に遠坂、桜、イリヤ、そして何故か泊まっていたランサーが取り囲み、

それぞれが声の限りに喚きたてております。

セイバーは今は落ち着いていますが、時々痛むのか顔をしかめます。

落ち着いているのは俺と、すでに子持ちの親父、そしてライダーくらいのもんです。

……なんてリポーターの真似事が出来るくらいに周囲が騒いでいる。

お陰で俺は全員からドロップキックを食らったせいもあって大分落ち着いた。

そろそろセイバーを病院に運ばなきゃならんし、車借りてこようか。

藤ねえと雷画爺さんを初めとした藤村組一同は、セイバーの出産に関し全面的な協力を申し出てくれている。

『真夜中でも起こしちゃっていいからねー』とは藤ねえの言葉である。

まさかホントに真夜中に起こすことになるとは思わなかった。

「ライダー、藤ねえのところから車借りてきてくれないか」

「それなのですが……」

廊下に続く戸口のところに立つライダーが、ちょっと困った顔を浮かべる。


「先程私が出ようとした瞬間、ランサーをも凌ぐ速度でアーチャーが飛び出していきました」


「時々思うんだけどセイバー関わるとステータス上がるなアイツ」


ランサーより速いってどんなスピードしてるんだ。

そして待つこと三分間。


ギャギィィィィィィィィィィィィィィイ!!!!


物凄く耳障りなブレーキ音が外から聞こえてきた。

「車を借りてきたぞ!!乗り込め!!」

間髪入れずに飛び込んでくるアーチャー。

その声に反応して、セイバーとアーチャーを先頭にどたばたと廊下を走り出す一同。

ふと、居間に残る人影に気づいて俺は足を止めた。

「親父、行かないのか?」

そう、親父だけが縁側に胡坐をかいたまま動いていなかった。

「うん、ほら、僕は幽霊だろう?縁起が悪いからね」

そう言ってタバコに火をつける親父。

「セイバーとお腹の子の無事をここで祈ってることにするよ」

「そっか」

煙を吐き出しながら言う親父に、一つ頷く。

「士郎、早く!!」

遠坂の苛立った声が玄関から響いてきた。

「じゃ、行ってくる」

「うん、セイバーによろしく」

親父の声をほとんど背中で聞きながら、玄関へと走る。

靴をつっかけて、もう全員乗り込んでいたバンに飛び乗った。

すぐさまドアが閉められ、アーチャーがアクセルを踏んだ。

僅かな振動と共に、バンは走り出す。

アーチャーの運転は巧みだった。

なるべく車内に振動を与えず、しかしスピードは法廷速度ギリギリまで出している。

その甲斐あって、十数分ほどで病院に到着した。

先生による検診の後、すぐさまセイバーは分娩室へと行くことになった。

どうもセイバー、昼頃から兆候はあったらしいのだが『気の迷い』と決め付けて放っぽらかしていたらしい。

そのせいで、すぐにでも産まれそうな状態になっているそうだ。

移動しながら、セイバーはちょっと怒られていました。






で、俺達は分娩室の前で子供が生まれるのを待つことにした。

アーチャーは付き添いとして分娩室に入ったが、俺達まで入れるはずもなかった。

やることもなく退屈かとも思ったのだが……

『くうっ……う、生まれる……』

この通り、中の声がかすかに聞こえてくるのだった。

『セイバー、頑張れ!!私はここだぞ!!』

『はいもーちょっといきんでー』

あのすいません、先生のテンションがやけに低いのは気のせいでしょーか。

『ふっ……!?グヘホッ!!アボヘッ!!』

な、なんだ!?

『ちょっとセイバーさん、何食べてるんですか!!』

『み……水ようかんを……』

水ようかん!?

どーやって持ち込んだんだ!?

『そんなもん食べてるから咳き込むんですよ!!ハイ没収!!』

『ま、まだ半分しか……』

『諦めなさい!!前代未聞ですよ水ようかん食べながらお産に望む人なんて!!』

そりゃそうだろうなあ。

セイバー並に食い意地が張ってるって言えば藤ねえくらいだし。

もしかしたら藤ねえが子供生むときも似たような事件が起きるかもしれん。

『くっ……うう……はあっ……!!』

『セイバー!!私の手がわかるか!?しっかりと握るんだ!!』

お、かっこいいぞアーチャー。

けど今のセイバー、力の制御できてないんじゃないのか?
































『あああーーーー!!痛ったいですねェェェ!!!!』



パキポキパキペキポキ。



『ンギャーーーーーーーーーー!!!』
































思ったとおりスゲェ良い音立てて折れた。

アーチャーの絶叫が扉の存在無視して聞こえてきたし。

『セイバーさん、今ので赤ちゃんの頭が出てきましたよー』

お、怪我の功名。

怪我してるのはアーチャーだけど。

『先生!!今ので旦那さんが手を複雑骨折して白目剥きました!!』

『あー、ゴマ油でも塗って蹴り出しとけ。こちとらこれから大事なとこだ』

そして開く分娩室の扉。

本当に蹴り出されるアーチャー。

無言で戻る看護士さん。

塗りたくられたゴマ油。

「……大変よね、出産って」

遠坂が呟く。

大変に間違った気がしないでもないが、その場にいた一同は皆大きく頷くのだった。

その後、復活したアーチャーは分娩室に突貫し、速攻でカウンター食らって蹴り出された。






……さてそれから数時間。

そろそろ朝日が空高く昇ろうかという頃。

『オギャアーーーーーー!!!!』

記念すべき産声が高らかに響きわたった。

「今の声……」

「産まれた?」

「産まれた!?」

ざわざわと話し合う一同。

そして、分娩室の扉が開いた。

「はいおめでとー。元気すぎるほどに元気な女の子だよ」

先生、相変わらずテンション低いです。

「旦那さん呼びたいんだが……どこ行った?」

『そこで寝てます』

辺りを見回す先生に、一同の声と動作が完全なシンクロを見せた。

びしっ、と床の隅っこを指差す指先。

その先で床に転がるアーチャー。

カウンター食らって蹴り出された後、壁に激突して気絶してそのまんまなのである。

ドラゴンボールみたいに真横に吹っ飛ぶ人間を、聖杯戦争以来久々に見ました。

「なにのんきに寝てんだろうねえ、この旦那は」

ぶつくさ言いながらアーチャーに歩み寄る先生。

どうでもいいけど寝てるのはあんたんトコの看護士さんが原因です。

「おーい、起きんか」

アーチャーの顔の横にしゃがみこみ、ぺしぺしと頬を引っ叩く先生。

すると、『う……』とか唸り声を上げてアーチャーの瞼が薄く開いた。

「…………濃紫のレース」

目を覚ますなり意味不明な言葉を口走るアーチャー。

が、その視線の先を辿ると理解できた。

偶然か否か、ヤツの視線は先生のミニスカートの中へと向いていた。

「……ふむ」

先生は一つ頷くと、いきなりアーチャーの胸倉をひっ掴み。


「寝ボケんなこのダメ亭主!!!」


バシンビシンバシンビシンバシン!!!


ものスッゴイ勢いの往復ビンタがアーチャーの頬に炸裂した。

真っ赤になったかと思うと、面白いくらい急激に顔が腫れ上がっていく。

「よし、目が覚めたところでご対面だ」

顔面が崩れたトマトみたいにズタボロになったアーチャーを引きずって分娩室に戻る先生。

そして数分後。


「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


おそらくアーチャーの顔に本能的に恐怖を覚えたのだろう。

産まれたばかりの赤ん坊は、もう一度大きな泣き声を上げたのだった。






んで、四日後。

セイバーと赤ん坊は母子共に非常に健康で、無事退院の日を迎えた。

見舞いに来たときに先生に言われたのだが、セイバーの食欲はすぐに戻ったらしい。

産後最初の食事こそ手をつけなかったのだが、次からはもう食べる食べる。

『入院中にあんなに食う母親をはじめて見たよ』とは先生の談。

セイバーだしなあ。

経理の人に呼び止められて『入院費割増ししていいですか?』とかなり真剣に言われたりもしたし。

いや、勿論入院費は適正価格で請求されたけれども。

まあそんなことはあったけども、晴れてセイバーと赤ん坊は退院。

現在、アーチャーの運転で衛宮邸に向かってきている。

衛宮家住人一同は、居間に集まってその帰りを待っていた。

「楽しみだねえ、うん」

そう言うのは、実は一番そわそわしている親父。

親父は一度も見舞いに行かなかったので、赤ん坊の顔を見るのは今日が初めてなのだ。

『足が地につかない』を体で表現しているかの如く、ぷかぷかと宙に浮いている。

「ホント、楽しみねえ誠」

「だうー」

そしてセイバーの退院を聞きつけて朝から居座っているキャスター親子。

ミルクまで作らされた俺はなんなんだろうと切に思う。

「けど、ちょっと遅いわね」

「あー、藤ねえの家に車返すって言ってたからな」

「つかまっちゃったんでしょうねえ」

もう何杯目かになる茶をすする遠坂と、苦笑する桜。

きっと藤ねえあたりが大騒ぎしてるんだろうなあ。

赤ん坊、泣いてなきゃいいけど。

そんな心配をしていると。

ガラガラガラ。

「只今戻りました」

「あー」

「今戻った」

玄関が開く音と、三者三様の声が聞こえてきた。

すぐに、居間に顔を出すセイバーとその腕に抱えられた赤ん坊。

「あれ、アーチャーは?」

「荷物を部屋に置きに行きました。すぐに戻りますよ」

「うー」

遠坂の問いに答えるセイバー。

そしてそれに同意するように声を上げる赤ん坊。

「セイバー、体は平気かい?」

「はい切嗣。まったく問題はありません」

空中に浮かんだままセイバーに話しかける親父。

うん、教育にどう影響するかわからんからとりあえず降りれ。

「切嗣。抱いていただけませんか?」

「いいのかい?」

「勿論です。あなたの孫なんですから」

柔らかく微笑むセイバー。

その腕から、注意深く赤ん坊を受け取る親父。

「孫……か。そうか」

感慨深げに呟いて、そのまま宙に浮かび上がる親父。

だから降りろっちゅうに。

「あうー♪」

あ、喜んでる。

「ねえセイバー、名前は?もう決めたの?」

「あ、そう言えば聞いてませんでしたね」

宙に浮かぶ親父と赤ん坊から視線をセイバーに移して遠坂と桜が口を開く。

そういえば俺もあの子の名前まだ聞いたことなかったっけ。

「ええ、アーチャーが戻ってきたら発表してくれるそうです」

「うむ、そのつもりだが……?娘はどこだ?」

いつの間にか戻ってきていたアーチャーが辺りを見渡す。

確か天井近くに浮かんでいたんだけど……あれ?

「あ、先輩。あそこです」

桜が外を指差す。

というか、庭の上空だった。

「……なにをやっているんだ親父は」

「切嗣に抱いてもらったところああなりまして」

頭を抱えるアーチャーと、妙に平坦な声で答えるセイバー。

つーか屋根ぐらいまで飛んでいってるんだが。

シャボン玉の歌じゃあるまいし。

それでも喜んでる辺り、結構大物かもしれないぞあの子。

「おーい、親父。とりあえず降りて来い」

「はっはっは。実は上昇気流に乗っちゃったみたいでね。降りれないんだ」


「なんでンなもんが一般家屋の庭先に発生してるんだよ!?」


ツッコんでる間にも少しずつ上昇していく親父と赤ん坊。

結局、ライダーに屋根から跳んでもらって親父の襟首引っつかんで降ろしてもらった。

赤ん坊は再びセイバーの元に戻っている。

なんだかしょんぼりして見えるのは気のせいだろうか。

「親父。子供抱えたまま飛ぶの禁止」

「結構喜んでくれてたんだけどねえ」

言いながらイリヤを抱えて飛ぶんじゃない親父。

まあイリヤなら自分で何とかできるとは思うけれども。

「あー、そろそろ名前の方を発表したいのだが」

「そんな話もしてたわね」

「あの、リン。かなりどうでもいいことのように言わないでいただきたいのですが」

むしろ本日のメインイベントのような気がするんだが。

「んで、名前は?」

「うむ……この子の名前は……」

アーチャーが赤ん坊を抱き上げる。



「ゆの、だ。自由の由に貴乃花の乃と書いて、由乃だ」



「由乃……か。なんか意味はあるのか?」

「私もセイバーも、色々な事に囚われていたからな。

  何物にも囚われず、自由に、のびのびと育って欲しいという意味を込めてだ」

アーチャーが由乃を抱いたまま爽やかなスマイルを浮かべた。

その横で『命名・由乃』と書かれた紙を掲げるセイバー。

そしてその紙に小さく『葛木』と書き足すキャスター。
































「なにをやってるんですかっ!!」


カッキーーーーン!!
































セイバーが召喚したエクスカリバーによってお空の星となるキャスター。

「キャ、キャ♪」

母親の勇士を見て喜ぶ由乃。

やっぱ大物だ。

「おー、結構飛んだわねー」

「新記録樹立だねー」

「おや、誠を忘れていますね。届けてさしあげなくては」

もはやキャスターがカッ飛ぶ光景も見慣れた衛宮家住人一同。

こうして、由乃の命名式はいつもの如く騒動のうちに終わった。

いつか由乃も、騒動を巻き起こす側に回るんだろう。

大変そうだけど、同時に妙に楽しみだった。




―――そうやって、日々は続いてゆく。

―――平和な光景と、騒がしい日常。

―――だけど、それこそが。

―――きっと、俺達の『幸福』なんだ。
































「すまんが、この子を預かってくれんか?並行世界の二人の娘なのだが」


『宝石翁キタ―――(゚∀゚)―――!?』



―――騒動の神は確実に降りてきてるみたいだけど。







あとがき


終・わ・っ・たぁぁぁぁぁぁ!!!

ようやっと完結にこぎつけました。



やっぱこの話のラストはセイバー出産でしょうと。

相変わらずの大騒ぎでしたが、そこが私の書く彼らなので。

一応出産シーンはネットの体験記読んで書いたのですが、

なにぶん経験がないので(つーか産む方じゃないんだが)、

間違いなんかはサラッと流していただけるとありがたいです。



アーチャーの『総員起床』は、研修で自衛隊に三日間ほど放り込まれたときにホントに言われた言葉です。

六時起床と予定表に書いてあるのに『速やかに起床』と五時に起こされました。

その後基地周辺を散歩し、川原で朝飯。(確か白飯、納豆、味噌汁、切干大根の煮物、牛乳だったかな)

風が強くて味噌汁があっという間に冷めました。



ところで『乃』の字を説明するときになんて言います?

一応検索したら相撲取りくらいしか使ってる名前ないんですよね、人名非人名問わずで。

結局わかりやすいってことで貴乃花になったわけですが、女の子に使うには……ねえ?



とりあえず、本編としてはこれで終了です。

外伝として数本分ネタはあるので、それ書いてMFLMKは終わりかな。

今回ラストの宝石翁が連れてきた子の事とか、セイバーがアーチャーに惚れる切っ掛けの話とか。

以前アンケート取った時の『オリキャラ』とは宝石翁が連れてきた子のことですよ〜。

外伝では5歳くらいになった由乃と誠も出てきますので。




それでは、外伝もカッキーンとヨロシク!!



web拍手設置しました。



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