「セイバー、妊娠してるわ」

その言葉に、俺は頭が真っ白になった。

何がなんだかわからない。

セイバーが、ニンシン?

セイバーが、ニシン?

ああ、魚が食べたいのか、セイバー。

よし、じゃあ明日は身欠きにしんの煮物でも作って……

「あの、シロウ?現実逃避しないで頂きたいのですが……」

なんてセイバーの心配そうな声を、どこか胡乱な頭で聞いていた―――。



































Mother,Father,Lover,and Married Knight

   第2話      by楓野








「あー……聞きたいことは多々あるとしてだ」

なんとか頭のスイッチを現実方面に切り替えて。

「確かなのか?それ」

「はい。市販の妊娠検査薬ですから絶対とは言えませんけど……

  でも、確率はかなり高いと思います」

「えーっと、もしかしてさっきライダーが買ってきたのって?」

「妊娠検査薬ですが」

なるほど。

妊娠検査薬なんてうちに常備してあるわけもないし、

今うちにいるメンバーで一番速いライダーに買って来てもらったというわけか。

となると、次の疑問。

「えーっと……セイバー?」

「はい……シロウ」

「父親は誰なんだ?」

と、尋ねた。

やっぱり妊娠ってからには父親がいるんだろうし。

「……父親……ですか……アーチャー、何処へ行くのですか」

途中から妙に鋭くなったセイバーの声。

その視線を追ってみれば、ゴキブリじみた動きでこっそりと居間を抜け出そうとするアーチャーの姿。

「は、ははは、なに、食事も終わったので自室へ戻ろうとな」

「ほう、貴方は自室へ戻るのに音も立てず、床を這って移動するのですか」

「い、いやいや。た、たまたまだ、たまたま」

見てて面白いくらいに狼狽するアーチャー。

なんつーか情けねぇ。

「たまたまですか。まあいいでしょう。ですが少々話に付き合っていただきたいのですが?」

「い、いや……そ、そう!ライダーに借りた本が読みかけでな。あれは面白い。

  続きが気になって仕方ないので一刻も早く読みに戻りたいのだが……」

「話の後でお願いします」

「はい」

アーチャー、陥落。つーか弱っ。

ってちょっと待て。

「まさか父親って……!」

「はい。そこでゴキブリのように這いつくばっているアーチャーです」


ざわっ……!


ほんの六人しかいない居間が、一瞬だけ超満員の体育館のようにざわめいた……気がした。

アーチャーを除く五人の視線がアーチャーに集中し、当の本人はと言えば正座して硬直している。

そのまま、全員沈黙。

何か物音が聞こえた気もするけど……喋りづらい。

「……ア〜〜チャ〜〜……」

沈黙を破った遠坂の声が、居間の中に低く響く。

うつむいている為に表情は見えないが……俺にはわかる。

遠坂は今、完全、絶対、これ以上ないほどに怒っている……!!


「アンタナニやらかしてんのよーーーっ!?」


「ま……待て!そ、その……本当に私の子なのかね!?」

狼狽してわめきたてるアーチャー。

それに反応したのは、意外にも桜だった。


ガタッ!!


「酷いですアーチャーさん!!セイバーさんが浮気したとでも疑うんですか!?」

桜の言うことは正しい。

セイバーに限って浮気なんて絶対にないだろうし。

「そうですね。少々、今の発言は心無いものであったかと」

ライダー、援護射撃。

「ち、違う!!ただ、私は間違いないのかと問いただす意味で……」

「それにしたって言い方ってもんがあるだろ?」

あの言い方だと、完全に浮気を疑う言い方だもんなぁ。

「セイバー、間違いないのね?」

「無論です。父親はアーチャー以外ありえません。

  あれは三ヶ月ほど前でしたでしょうか……私が中はダメですと何度も訴えたのに、

  アーチャーはなんら気にせずに私の中に欲望をぶちまけ」

「セイバー、ストップ。規約に引っかかるとマズいわ」

メタな発言するな、遠坂。

それにしても……

「……アーチャー」

「仕方あるまい!そもそもサーヴァントが妊娠するなど誰が想像する!?」

「アンタねえ……キャスターが妊娠してしっかり出産したの忘れたの!?」

そう。

つい先月、葛木先生とキャスターの子供が無事誕生した。

元気な男の子で、今、柳洞寺は葛木夫妻だけでなく修行僧まで赤ん坊に夢中だ。

一成も、『やはり赤子というのはいいものだな』なんていってたし。

「あれは片方が人間だっただろう!どちらもサーヴァントなら問題ないと……」

「条件が何であれ前例があったんだから予測しなさいっ!!!」

ギャーギャーと言い争いをする遠坂とアーチャー。

片やアンタが悪い、片や私は悪くない。

なんかもう妊娠したのが遠坂だってくらいの騒ぎっぷりだ。

「ああもう!……とにかく、お腹の子の父親がアーチャーだって言うのは間違いないわ」

「はい。それ以外に思い当たることはありませんし、

  そもそも私はアーチャー以外との性的交渉は持ったことがありませんから」

……どうでもいいけどもうちょっとオブラートに包んだ言い方してくれないかなぁ。

こう直接的な言い方されるとイカンとは思いつつ想像してしまう。

「それで、アーチャーさんの処分はどうします?」

桜、怖い顔してそんなこと言わない。

「アーチャーの返答次第ではないかと」

「そうね……返答次第では去勢かしらね」

なんか話がスゲェ方向に進んでる気がするんですが。

まあでも今回は当事者じゃないから気が楽か。

で、当のアーチャーは……冷や汗流しまくって硬直してる。

アレが俺の未来の姿かもしれないと思うと……情けない……。

「さて、アーチャー……………?」

遠坂が妙な所で言葉を切る。

そして、家の奥の方に目をやる。

































ドタドタドタドタドタ!!

すぐさま廊下を走る音が聞こえたかと思うと、

































バン!!!!

居間の戸がおもいっきり勢いよく開けられ、

































「シロウ、ちょっと来て!!」

なんてことを言うイリヤが、飛び込んできたのだった―――。




あとがき


スイマセン、前回あとがきの『あの人』出ませんでした。

アーチャー関連のイベントが予想外に長かったので。

凛がムチャクチャ動かしやすいことが判明。

むしろ出張りすぎるのを押さえるのに苦労してます。

逆にライダーはなんとなく動かしづらい気がしますね。

口調がセイバーと似てるので、なんとか判りやすいようにしているのですが。

あと、冒頭に出てきた『身欠きにしんの煮物』ですが、実は管理人あまり好きじゃないです。

でもニシン料理はこれしか知らなかったので。


それでは、次回もキュピーンとヨロシク!



web拍手設置しました。



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