いきなり復活した親父をドロップキックでぶっ飛ばしたその後。

「……で、なんでいきなり出てきたんだ?」

大げさに吹っ飛んだわりにはひょっこり起き上がった親父に尋ねてみた。

ちなみに、アーチャーを除く他のメンバーはなんか部屋の隅っこで固まってる。

アーチャーは……畳に突っ伏して痙攣してる。

多分、さっきの親父に幻滅したかあるいはツボに入ったか……たぶん後者だ

「んー、ここ最近士郎の周りが随分面白そうだったからね」

記憶のままの笑顔で答える親父。

「こっち(現世)のことわかるのか?死んでても」

「他の所は判らないけど、僕の張った結界の中だったら映像だけは見れるよ」

つまり、この家だけなら見れるってことか。

「ここ一ヶ月はテレビに釘付けでねえ」

「テレビで見てんのかよ!?」

相変わらずのボケなんだかマジなんだかわからないぶっ飛んだ言動。

それが、とても懐かしくて。

目の前にいる幽霊は、親父なんだなって、実感した。

































……幽霊?

































「親父……そういえばなんか体が透けて見えるんだけど……」

「うん。僕はね、幽霊なんだ」

親父が言った瞬間、仏間から音が消え去った。

呼吸音すらも消え去って、沈黙すること5秒間。

そして。

































『キャァァァアアアァァァアァァ!!!!』

































女性陣の耳をつんざくような悲鳴が、ご近所にまで響き渡ったのだった。



































Mother,Father,Lover,and Married Knight

   第4話      by楓野








「うーん、女性の悲鳴は何度聞いても耳に響くねえ」

「のんきなこと言ってる場合か親父!!」

先程とは一転、仏間は盛大な騒ぎになっている。

桜やイリヤならともかく、遠坂やライダーまでパニクって走り回っている。

しかも部屋中を走り回るので、床に転がってるアーチャーが踏まれる踏まれる。

踏まれる度に『ぐはっ』とか『うぐっ』とか声を上げてるんだけど、

大混乱中の皆の耳には欠片も届いてないらしい。

「シロウ、キリツグ」

「あ、セイバー」

セイバーだけは走り回らずに俺たちの傍に寄ってきた。

まあ、お腹に子供がいるんだから走り回られても困る。

「やあ、久しぶりだねセイバー」

「はい、キリツグ。貴方もお変わり……なくはないようですね」

「なにしろ幽霊だからねえ」

のんきに会話する二人。

いや、そんなことしてる場合じゃなくて。

「どうするんだ、この事態」

「一人ずつ止めるしかないのでは?」

「それが妥当かな」

なんて言った親父が、フラリと歩き始める。

「よーし、パパ、イリヤちゃん捕まえちゃうぞー」

「変質者っぽいぞ、親父」

俺のツッコミも気にせず、親父はイリヤに向かって足を進める。

「!!キャーーー!!!!

親父が近づいてることを悟ったイリヤのスピードがグンッ!と上がる。

だが、やはり子供と大人、コンパスの長さが違う。

程なくして親父はイリヤに追いつき、ひょいっと後ろから抱え上げた。

「うん、元気に育ったねえイリヤ。僕も嬉しいよ」

なんてほのぼのしたセリフを言う親父だったが、

「イヤーーーー!!!!」


ガツッ!!


「がはっ!!」

イリヤの振り回したカカトが、アッパーで綺麗にアゴに入ったのだった。


「キャーーーー!!キャーーーー!!キャーーーー!!!!



ガスッ!ゴスッ!ベシッ!ドズッ!!


親父に体を支えられたまま、空中乱舞へと流れるイリヤの足。

どれもこれも芸術的なまでに綺麗に親父の顔へとヒットする。

顔面をメタクソに蹴られ、手を放してぶっ倒れる親父と、地面に降り立ってまた走るイリヤ。

「……なんだろ今のコント」

「……わかりません、シロウ」

親父は顔面のダメージが残っているらしく、起き上がろうとしない。

結局親父はあんまりアテにならないことがわかったので、

俺とセイバーでなんとか四人を止めにかかるのであった。

ちなみにアーチャーは全員が落ち着いた後で、ボロ雑巾になっているところを無事保護した。

……今回は同情するぞ、アーチャー。



「あっはっは。いやー、あんなに綺麗なアッパー貰ったの久しぶりだよ」

「カカトだったけどな」

みんなで居間に移動して、お茶を入れつつ皆で一息。

大騒ぎしていた四人は、ちょっと落ち込みつつ大人しくしている。

踏まれまくったアーチャーはほとんどミイラ男状態だ。

「僕の奥さん――イリヤの母さんにも何度かどつかれたけどねえ」

「………」

多分その場面を見たか聞いたかしたのだろうイリヤが眉をひそめる。

「彼女は伝統的な笑いが好きだったからねー」

……はい?

「どういうことだ?」

「聞いたとおりよシロウ。私のママは伝統的な……悪く言えばベタなお笑いが好きだったの。

  キリツグはそれを嫌って、次々と革新的で時代を先取りした笑いを追及したそうよ。

  時代を先取りしすぎてあんまり好評じゃなかったらしいけど」

渋い顔で説明してくれるイリヤ。

それを聞いた親父はにこにこと、

「よく『そんなモンで笑えるかぁぁぁ!!』なんて言われて皆からどつき回されたもんだよ」

と、補足してくれた。

なんだそれ。

アインツベルンって芸人養成学校だったっけ?

「ちなみに、僕の登場シーンも10年前に考えたものなんだけどどうだったかな?」

「あー、親父、最近あの芸風で売れてるのいるから」

ホントに先取りしすぎだ、親父。

ということはもしかして……

「なあ親父、イリヤの母さんと別れた理由って……」

「性の不一致ならぬ芸の不一致だね」

うわあ衝撃の新事実。

そんな世にも可笑しな離婚理由でいいんですかアインツベルンの方々。

「ねえイリヤ……アインツベルンって……なに?」

「聞かないで、リン……なんか自信なくなってきちゃった……」

遠坂の問いかけに、イリヤは目の幅の涙を流しながら答えるのみであった。



「なんにせよ……キリツグはいいタイミングで帰還してくれました」

「そうね。小父様の意見も伺いたいトコだわ。なんせ家長だし」

セイバーと遠坂が頷きあう。

そしていつの間にか家長から格下げされている俺。

別にいいんだけどね。親父いるし。うん。

「――キリツグ。聴いて頂きたい事があります」

セイバーの凛とした声。

それに対して親父は、

「真剣な話みたいだね」

そう言って腕を組みつつ、一度目を閉じ――






「――わかった。聴こう」






ゾッとするような鋭さを瞳と声に宿らせて、セイバーに向き直った。

それは、俺が親父に『魔術を教えてくれ』といった時以来のかお

いつものおポンチな親父ではなく――『魔術師・衛宮切嗣』としての貌。



そして間違いなく、『父親』としての貌でもあったんだと、後に気づいたのだった――。






あとがき


切嗣全力疾走。

今回は、切嗣さんがメインでしたね。

うちの切嗣さんはこんな感じです。

普段はネタにまみれた言動だけど、真剣になると最後みたいに鋭く。

マジな時とそうでない時のギャップが激しい、というキャラは好きなので。

ちなみに、切嗣さん幽霊ですが実体化もできます。

細かい所は後々の話で書きますが、今のところは、

『実体化してもちょっと透けてるサーヴァント』みたいな感じで捉えておいてください。


でも、サーヴァントじゃないですよ。


それでは、次回もウォンチュってヨロシク!



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