〜Archer side〜


「なるほど」

セイバーの話を聞き終わり、切嗣は一言そういった。

「まさか……君が士郎の可能性だとはね」

「……よしてくれ。私は……貴方に士郎と呼ばれる資格はない」

視線を向けた切嗣に、私は目を晒して吐き捨てるように言う。

だが、切嗣は首をゆっくりと横に振った。

「そんなことはないさ。どれだけ時が流れようと、

  たとえ世界が違っても、エミヤシロウは僕の息子なんだ」


「だが……!私は、あなたとの約束など守れなかった……!

  自らの理想すら……裏切った!」


知らず、私は立ち上がっていた。

言葉が、止められない。

激情のままに、私は言葉を吐き出し続ける。


「私は裏切った!!何よりも大切だったはずの……あの約束でさえ裏切った!!

  何一つ!!貴方に誇れるようなことなどしていない!!

  私は正義の味方になど!!なれはしなかったんだ!!


血を吐くような叫びと共に……私は、涙を零していた。

嗚咽を漏らしつつ、机を力の限り叩きながら。

小さな子供のように、涙を、流し続けていた。

誰も口を開かない。

いや―――開けないのか。

セイバーでさえ、口を挟むのを躊躇っている。

「……シロウ」

切嗣が、ゆっくりと私へと歩み寄る。

「僕は、君がどんな風に生きたのか知らない。

  どんなことをしてきたのかも……僕にはわからない。

  だから、君が自分を責めるのなら僕は止められない」

肩を優しく叩きながら、切嗣は言葉を続ける。

「でもね、シロウ。これだけは知っておいてほしい。

  君がどんな生き方をしようと。

  たとえ、人の道に外れていたとしても。

  僕は、君を責めることなんてしない。

  君を育てた僕だって、きっと同じように言うはずだよ」

その言葉は。

誰の、どんな言葉よりも。

私の心に、染み入って。

傷口に沁みるような熱と共に、涙を、より熱くした。

「……親…父……」

「うん」

やさしい、笑顔。

それは、まだ世界と契約する以前。

何よりも、望んでいたものではなかったか?

「いいのか……?あなたを……父と…呼んで、も……っ」

「当たり前じゃないか、シロウ。

僕は、君の父親なんだから」

……言葉が、見つからない。

この熱さを、感謝の念を、伝える言葉が、見つからない。

大丈夫だ。

私は、やっていける。

例え今英霊の座に戻ったとしても。

この記憶さえあれば、私はいつまでもやっていける。

だから、私は。

「ありがとう……親父……ありが…とう……」

ありきたりな、けれど最高の感謝の言葉を、何度も何度も繰り返すのだった……。



































Mother,Father,Lover,and Married Knight

   第5話      by楓野








〜Sirou side〜


不覚にも、目頭が熱くなった。

周りを見れば、皆もらい泣きしている。

「……」

セイバーが立ち上がり、アーチャーの元へと歩く。

親父と目を合わせて、親父が頷くとアーチャーの側へと腰を下ろす。

「……アーチャー」

「……セイ、バー……」

アーチャーは顔を上げると同時に、セイバーを強く抱きしめた。

少しだけ驚いたようだったが、すぐに優しい表情に戻ると、

アーチャーを抱き返しながらその頭を優しく撫でる。



ようやく涙を止めたアーチャーが、セイバーを離す。

二人が離れるまでに、約十分が経っていた。

「よかったわね、アーチャー」

まだ涙目の遠坂が声をかける。

「済まない。恥ずかしい所を見せたな」

「そんなことありませんよ、アーチャーさん」

アーチャーの少し照れくさそうな言葉に、これも涙目の桜が笑って返す。

「うん、感動の場面も見せてもらったし」

そう言うと、遠坂は後ろを向いた。

ごしごしと服の袖で涙を拭う。

そして振り向いた遠坂の表情は……

































「本題に入るとしましょうか」



よく知った、あかいあくまの顔だった。

ぴきーんと、アーチャーが再び硬直する。

「ま、ままま待ちたまえ凛!感動が台無しだとは思わんのかね!?」

「この作者の文で感動なんてできるわけないでしょ?」

そう言ってやるな、遠坂。

一応一生懸命書いたらしいし。

というかまたメタな。

「お、親父!」

「確かに責めるつもりはないって言ったけど、

  これに関してはちょっと凛ちゃんに同意かなぁ」

またのんきに笑いながらそんなことをいう親父。

というか、親父に助け求めるなよアーチャー。

大人なんだからさ。

「やっぱりね、できちゃったからには責任を取らないといけないよ?

  それとも何かな?まさかセイバーに堕胎しろなんていうつもりなのかい?

あ、親父の眼がちょっと怖い。

魔術師モードに入りかけてるな、あれは。

「そんな!アーチャーさん酷いです!!鬼畜です!!」

「潔く責任を取るのが男だと思いますが?」

桜とライダーの相変わらず痛烈な言葉の砲撃。

「キリツグー、抱っこして?」

「うん、いいとも。大きくなったねえ、イリヤ」

そこ、ほのぼの父娘やってんじゃない。

さっきの魔術師モードはどうした親父。

「さあアーチャー?結婚?それとも去勢する?」

「あの、リン。できれば去勢は堪忍していただきたいのですが……私が困るので

なんかセイバーが色にまみれた発言した気もするけど、聞かなかったことにしよう。


「さあ、どうするのアーチャー!さあ!さあさあさあさあさあさあ!!!!


遠坂にずずいと詰め寄られ。

硬直しきったアーチャーは、蚊の鳴くような声で、

































「……責任は、取る」

































と、呟いた。

「へ?」

「な?」

「はい?」

「は?」

「え?」

「うん?」

遠坂、俺、桜、ライダー、イリヤ、親父の間の抜けた声が見事に重なった。

そして固まる俺たち六人。

「責任は取る、と言ったのだが」

もはや吹っ切ったのか、硬直も解けていつもの余裕溢れる態度に戻っているアーチャー。

そのアーチャーが、間違いなく口にした。

『責任を取る』と。

































『えぇぇーーーーーーーーーーー!!?』

































六人の驚愕の声が、再び見事に重なった。

「な、なんでよアーチャー!!なんでそんなこといきなり言い出すわけ!?」

「何故も何も……私は始めから責任を取るつもりだったのだが」

ピシッ、と。

セイバーとアーチャーを除く、六人が石化した。

「……もしやとは思うが凛。君は、私がセイバーを孕ませてトンズラするとでも思っていたのかね?」

ため息など吐きながらのセリフに、

「うん」

ぱりーん、と石化を破って遠坂が答える。

「……君は私をなんだと思っているんだ。よく考えてみたまえ。

  私は『責任を取らない』とは一言も言っていないのだが?」

1時間ほど前、ここで話していた内容を思い出してみる。

えーと、アーチャーは……ほとんど喋ってねえ。

それ以前に、遠坂が発言封じてたし。

「確かに、責任を取らないとは言っていませんでしたね」

ライダーが何度も頷きながら呟く。

「なんでさっさと言わなかったのよアーチャー!!」

遠坂がちょっと怒りながら怒鳴る。

それと同時に。

































ぷち。

































「君が反論の機会を全く与えてくれなかったんだろうがぁーーー!!」

アーチャー、キレる。

キャラちょっと変わってるぞ。

「だ、だって!アンタ『私の子なのか』なんて発言してたじゃない!」

「だから言っただろう、あれは間違いないのかと確かめただけだと!!」

「では、ゴキブリのような動きで部屋から出て行こうとしたのは?」

「部屋に置き忘れたものを取りに行こうとしただけだ!

  セイバーが妊娠したとなれば必要だろうと思ったのだが……」

遠坂とライダーの質問にイラつきながら答えるアーチャー。

「じゃ、じゃあ……今回の騒ぎって……」

「えっと……私たちの、早とちり……」

































ガビーーーーン。

































アーチャーとセイバー以外の全員が、『やっちまったー!』と言うような表情へと変わる。

「……まったく。アーチャーがそのようなことをするはずがないではありませんか」

セイバーがやれやれ、と溜息を吐く。

そういえば、セイバーだけは俺たちのように騒いだりしてはいなかった。

やっぱりアーチャーを信頼していたのか。

































「あんなに美味しい料理を作るアーチャーがそのような鬼畜であるはずがありません!!」




『どんな理屈だー!!!!』


































六人のツッコミが見事に唱和する。

つーかさすがセイバー、料理で人を判断するのか。

言われたアーチャー自身も……あれ?

「……セイバー」

「はい?」

アーチャーは、妙に真剣な表情で言う。

「少し、席を外す。ここにいてくれ」

「はぁ」

「すぐに戻る」

そう言って、アーチャーは居間から出て行った。

足音からして、アイツの部屋に向かったようだけど……。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

遠坂たちはラクガキっぽい姿になってしゅ〜んとうなだれている。

なんかちょっと可愛いかも。



「待たせたな」

戻ってきたアーチャーは、セイバーのすぐ側に座る。

「セイバー、これを」

スッ…と、アーチャーはセイバーに小さな箱を差し出す。

「これは……?」

「指輪だ。ウェイターの給料は高くはないので、少々安物だが……」

「!?」

セイバーが箱を手にしたまま驚く。

時々いなくなると思ってたら働いてたのか、アーチャー。

「順序が逆になって申し訳ないが……」

アーチャーが、居住まいを正す。

なんだかつられて、俺たちも背筋を伸ばした。

































「……私と、結婚してほしい。この通りだ!

































勢いよく、アーチャーが頭を下げた。

いつもの情けない土下座ではなく、誠心誠意を込めたプロポーズ。

今日何度目かの、そして一番の静寂が居間に訪れる。

「……頭を、上げてください。アーチャー」

とても柔らかく、優しい声でセイバーが呟いた。

ゆっくりと頭を上げたアーチャーが見たのは、最高に幸せそうな柔らかいセイバーの笑顔。

セイバーは、もう一度居住まいを正し、アーチャーの目を見据えると、

































「……謹んで、お受けいたします。アーチャー」

































最愛の人の動きをなぞるように、深々と頭を下げたのだった。

「……セイバー!」

「……アーチャー!」

頭を上げたセイバーが、指輪の箱と共にアーチャーの胸へと飛び込んでいく。

そして二人が抱き合った瞬間、

































『やったーーーーー!!!!』

































家中に、六人分の歓喜の叫びが響き渡った!

「おめでとう、セイバー!」

「おめでとうございます、セイバーさん!」

「おめでとうございます、セイバー」

「おめでとう、セイバー」

「ありがとうございます、皆!」

女性陣が、次々とセイバーにお祝いを述べ、セイバーは笑顔でそれに答える。

「……かっこいいじゃん、アーチャー」

アーチャーの肩を軽く叩きながら俺が言うと、

「……自画自賛だぞ、衛宮士郎」

と、照れながらぶっきらぼうに返してくるのだった。

「うーん、めでたいねえ。めでたいと言ったら?」


「ネ!」


「兄!」



『祝!!』



「ってなにやらすんだ親父!!」

俺がネを、親父が兄を体で作る。

昔さんざん付き合わされたせいで、つい体が反応してしまった。

「あっはっは。いいじゃないかめでたいんだから。

  よーし!!めでたいついでに、今日は飲もうか!!

  士郎、お酒とおつまみ頼むよ!」

「親父、飲み食いできるのか?」

「触れるように実体化すれば問題ないよ」

「よし、まかせとけ!!存分に腕を振るってやる!!」

「先輩、お手伝いします!!」

「私、お酒探すわ」

「あ、セイバーはお酒飲んじゃダメだよ。お腹の子に障るといけないからね」

「はい、キリツグ!」

「もちろん、イリヤもだよ」

「え〜!?」

「ま、舐めるくらいなら許可しようか」

「うん!!」

皆でわいわいと騒ぎながら、宴会の仕度をしていく。

セイバーがテーブルを運ぼうとするのをアーチャーが制して運んだり。

親父とイリヤが仲良くコップや取り皿を運んだり。

遠坂が探し出した酒はかなりの量になったが、その全てが居間に運ばれた。

「シロウ〜!サクラ〜!先に乾杯だけするから来てって〜!」

「誰だ言い出したの……今行く!!」

「早くしないと飲んじゃうわよ!」

「わわ、待ってください姉さん!!」

俺と桜が急いで居間へと戻る。

「それじゃあ、セイバーとアーチャーの前途を祝して、かんぱーい!!」



『カンパーイ!!!!』



親父の音頭でグラスが打ち鳴らされ、それに口をつける。

「よし、料理の続きだ!」

「はい!」

俺と桜は台所に戻る。

程なくして一品、さらにもう一品と次々と料理が出来上がる。

出来上がった料理は次々と居間に運ばれて。

それをつまみに、居間はどんどん盛り上がる。



こうして、泣いたり笑ったり怒ったりと忙しい一日は、めでたい結末となったのだった。






あとがき


プロポーズ!!プロポーズですよ奥さん!!(←誰だ)

まあ、序盤のアーチャーに関してはツッコミ所多々あるかもしれませんが、

その辺は笑って流してもらえると気が楽です。

プロポーズシーンは、上手く緊張感と間を表現できたかが気になります。

うまく伝わってるといいなあ。


切嗣さんメシ食えることが判明。

食わなくても大丈夫なんですけどね。


今回をターニングポイントにしようと張り切って書いてたら、

ファイルサイズが前回までと比べて倍になりました。

ほとんど増刊号みたいな感じです。


ちなみに、まだ終わりじゃないですよ。

少なくとも、結婚式挙げて子供生まれるまでは続けるんで。

まあ、まだまだドタバタは続きます。

ラスボス残ってますし。



それでは、次回もレッツ☆ヨロシク!



web拍手設置しました。



Next

Back

SS一覧へ

インデックスへ