これはまだ、由乃がセイバーのお腹にいた頃の話。



毎日の日課、皿洗い。

夕食後、一人皿を洗っているとふらりとセイバーが台所にやってきた。

最近のセイバーはお腹も大きくなってきている。

「シロウ」

「ん、どうしたセイバー?」

「この家に、ファミコンはありませんでしたか?」



































Mother,Father,Lover,and Married Knight

   外伝その1『セイバーさんとファミコン』      by楓野









「……ファミコン?」

言われてみれば、あった気がする。

外国を飛び回ってた親父が帰ってきた時には、よく一緒にやったっけ。

マリオの無限1UPとか無意味に仕込まれたし。

藤ねえが乱入してきていつの間にか俺と藤ねえのタイマンになっていたのはご愛嬌だ。

「セイバー、ファミコンなんて知ってたのか?」

「前回、召喚された時の暇つぶしに。キリツグの私物だったようですが」

そういえば、俺がこの家に来た時点で、本体は何年か経っていた感じだったしな。

当時としてはそこそこのゲーマーだったのか親父。

やりこんでたゲームはトコトン上手かったし。

「で、なんでまた今更になって?」

「つい先日思い出したのですが、一つだけ攻略できなかったゲームがあるのです。

 あと一日あれば間違いなく攻略できていたのですが……」

なんとも悔しそうな顔をする。

それで気になって俺に聞いてきたというわけか。

「確か、土蔵のどこかに投げっぱなしだと思う。少なくとも、捨てた覚えはない」

「土蔵ですか」

「セイバーは重いものとか持たないほうが良いだろ。

 俺と……藤ねえに手伝わせて探すよ」

このまま悔しがってたんじゃ精神衛生上よくないだろうし、探してみるとしよう。

無論、藤ねえを手伝わせるのは土蔵に混沌空間を作り出してくれたお礼である。

たぶん、藤ねえが持ってきた物を置いてる辺りにファミコンもあるはずだからだ。




居間でごろごろしていた藤ねえを引きずって土蔵に足を踏み入れ、

おぼろげな記憶を辿ってありそうな辺りをひっくり返しては元に戻していく。

なんか遠坂とか桜も面白がって手伝ってくれてる上に、

怪力スキルを持つライダーも来てくれてるので、割と早く見つかりそうだ。

一応土蔵は俺の工房のはずとかそういう抗議は却下します。

だって予想以上にカオスになってるんだよ土蔵が。

「士郎ー、こっちはないわよー」

「こっちも違いますね……あ、この食器割れちゃってます」

人手は多いが、すぐに見つかるというわけではない。

いろいろ見てみるのだが、どうも目的の物にはたどり着けない。

それどころか、むしろ余計な物まで見つかってどうしても興味がそっちにズレる。

「士郎ー!士郎の使ってたランドセル発見ー!」

「どうしようもないものばっか見つけるな藤ねえ!」

黒いランドセルを頭上に掲げた藤ねえに喝を入れながらまた新しい箱を下ろす。

中を見てみると藤ねえが持ってきたらしきガラクタが無造作に詰め込まれており、

これがハズレであることを如実に物語っていた。

ええい、藤ねえの持ってきた物のせいで俺の記憶も役に立たないし、

その上藤ねえが率先してみんなの意識を他にずらすし!

「わおー、士郎の写真が入ったアルバム発けーん!」

「ほう、これが士郎の子供の頃ですか」

「ギャーーーーーース!!」

言ってるそばからこれだーーー!!

っつーかライダー、見るな!見ないでくれ!

ええい、とっとと見つけてやる!

余計な恥を晒される前に目的のものを見つけてとっととここから抜け出すしかない!

そのためには……

「セイバー!」

「はい!?」

俺の呼びかけに、その辺を見渡していたセイバーが目を白黒させて振り向く。

「直感でいい!どの辺にありそうか示してくれ!」

「ええと……そこです!その『温州みかん』と書かれた段ボール箱です!」

「よし!!」

セイバーの幸運値と直感スキルならすぐに見つかるはず!

なら最初からやれよとか思うけど今気づいたから仕方ない!

セイバーが指し示した段ボール箱を床に下ろして蓋を開ける。

「あった……!」

目的の物はそこにあった。

ホコリとかが心配だったけど、本体もソフトもビニール袋に包まれているので大丈夫そうだ。

「うん、これなら多分動くと思う」

「ホント、士郎って物持ちいいわね」

言いながら、遠坂は本体のビニール袋を取り去って持ち上げている。

「なんだか懐かしいわね……」

「遠坂、機械苦手だろ?いじったことあるのか?」

「まだ魔術師の鍛錬を始める前にね」

そう答えながらいろんな角度から本体を眺め回す。

なんか楽しそうだ。

「じゃあ、片付けて戻りましょうか」

「これを片付けるのはなかなか手間がかかりそうですが」

ライダーの言うとおり、もともとカオスだった土蔵は、

色々ひっくり返したために更なるカオスとなっていたのであった。

つーか、片付けながら探せって言ったはずなんだけどな。

……なんでさ。




結局、片付けが終わったのがもはや就寝時間だったために、

ファミコンの接続やプレイは翌日に持ち越された。

そして翌日、俺は朝食が終わると同時にいきなり頭を悩ませるハメになる。

「シロウ、早くしてください」

「ちょっと待ってくれ……こっちだったかな」

実はファミコンをしまう時の一度きりしかいじったことがないので、

テレビへの配線をどう繋げばいいのかイマイチわからないのだ。

学校じゃ便利屋もどきのことをしている俺だが、さすがにファミコンの配線なんてやったことがない。

遠坂や桜は朝食後すぐにどこかへ出かけていったが、

もとよりこの件に関してはあの二人を当てにしていないので無問題。

特に遠坂。

「プレステとかだと端子につなぐだけだから楽なんだけどな……」

聞くところによるとニューファミコンなんかもそうらしい。

もうこうなったら新都に言ってニューファミコンを買ってくるかと思いかけたその時。

「……一体何をやっているのだ二人とも」

認めたくない救世主――アーチャーが現れた。

最近はウェイターだけではなく、時々深夜帯のバイトにも行っているそうだ。

昨日いないと思ったら夜勤で働いてたらしい。

「ファミコンの配線だよ。といっても、イマイチよくわからないんだけどな」

「……なぜファミコン」

世はPSPの時代だぞ、とでも言いたげなアーチャー。

言いたい事はわからんでもないがセイバーの希望なんだからしょうがない。

「……ふむ」

コントローラーを握って準備万端のセイバーをちらりと見下ろし、

貸してみろ、とのたまうアーチャーに渋々ながらドライバーを渡す。

「……確か、こうではなかったか?」

テレビの背面でアーチャーが細かく手を動かす。

「セイバー、電源入れてみてくれ」

「はい」

セイバーがマリオ1のソフトを本体に差し込み電源を入れると、

見事に昔懐かしいマリオのタイトル画面が表示された。

「おお、映りました」

スタートボタンが押されると、近隣世代なら誰もが知っている、あのピコピコした音楽が流れ出す。

「なんで配線知ってたんだ、お前」

「なに、ロンドン時代にたまたま引き受ける機会があってな。

 ソレが原因で次々と依頼され、最終的に百近く接続すれば嫌でも覚える」

多分、当時の任天堂の社員でもそこまで接続しねーよ。

というかアーチャーがいた頃のロンドンってファミコンブームでも起きてたのか。

「さて、私は少し休む。セイバー、本体を壊さんようにな」

「そんなことはしません!」

手に持っていたドライバーを俺に放り投げて、アーチャーは苦笑しながら自室へと消えていった。




「ふむ、しばらくぶりですが勘は鈍っていないようです」

コントローラーを操作しながらセイバーが言う。

たしかに、セイバーの操るマリオは障害物だの敵キャラだのよけまくってゴールへと突き進んでいた。

つーか上手いぞ、セイバー。

「で、セイバーがクリアできなかったゲームってこれなのか?」

「いえ、これは指慣らしに選んだだけですでに攻略しています」

まあ、でなきゃこんなにサクサク進めないよな。

「じゃあ、どれなんだ?」

「それが……」

セイバーは言葉を詰まらせてファミコンの電源を切る。

「士郎、この家にあるゲームソフトはこれで全てですか?」

ソフトが入った小型の段ボール箱を指差すセイバー。

「ああ、その箱以外に入れた覚えはないぞ」

結構大きい箱なので、ソフトがまだあったのなら一緒に入れるはずだ。

「その……ないのです」

「え!?」

「私が攻略できなかったゲームが、この箱には入っていないのです」

申し訳なさそうにセイバーが言う。

しかし、ないとはどういうことだ。

確かにこの箱には家にある全てのファミコンソフトが入っているはず。

もしかしたら誰かに貸したか失くしたかしてしまったのか……?

二人で首を傾げる。

その時、玄関の戸を開ける音が聞こえた。

「ただいまー」

遠坂が帰ってきたらしい。

「どう?順調?」

「行きづまった」

「なんでよ。そんなに難しいの?」

「いや、セイバーが昔やってたソフトが見つからない」

「攻略以前の問題じゃない」

そう言って渋い顔をする遠坂だが、すぐに明るい顔に変わった。

「ま、でもちょうどよかったわ」

「どういうことだよ?」

俺の疑問の声に、遠坂はニヤリと笑う。

「ファミコンソフト持ってきたのよ」

遠坂の後ろには、段ボール箱を担いだライダー、そして桜が立っていた。

ダンボールを下ろしてそれを開くと、中にはやはりファミコンのソフト。

「どうしたんだ、これ」

「家にあったのと、間桐の家にあったのを貰ってきたのよ」

「兄さんに聞いたら、『そんなものやらないからくれてやるよ』って言われました」

ということは、このソフトの何割かは慎二が持ってたものか。

どこかに行ってたと思ったら、遠坂邸と間桐邸を回っていたらしい。

早速、セイバーは目当てのソフトを探して箱を漁り始めた。

俺も遠坂と慎二がどんなゲームを持ってたのか気になって、箱を漁る。

「お、ドラクエ3だ」

「あー、それ私のだわ」

そう言って手を上げる遠坂。

「遠坂のか?」

「それにはちょっと思い出があってね」

遠坂は俺の手からドラクエ3を摘み取ると、本体に挿して電源を入れた。

この無音の画面が昔はなんとなく怖かったなあ。

「ほら、こういうこと」

遠坂が示したゲーム画面には、キャラクターの名前が表示されている。

魔法使いの『ときおみ』という名前は、多分遠坂の親父さんなんだろう。

そして勇者の名前は『りん』、僧侶の名前は『さくら』。

「この頃はまだ桜が家にいたのね。だから二人の名前をつけたんだわ」

二人が姉妹だった証拠がこんなところにあったのか。

確かに、これは思い出のゲームだ。

二人で仲良く遊んだ、形に残る証拠。

「……思い出しました」

桜が不意に口を開く。

「確か私は魔法使いがよかったんですけど、姉さんが、

 『魔法使いはお父さんだからダメ』って言ってケンカになったんですよね」

「そうそう。おかげで買ってから3日は全然遊ばなかったわね。

 二人で一緒にやるって約束してたからなんとなく一人じゃできなくて」

「魔法使いをお父さんの名前にしたことを言ったら、

 『魔術師はないのか』なんて大真面目に聞いてきたりしましたね」

「あったわね、そんなこと」

思い出に浸りながら語らう姉妹。

その姿は非常に微笑ましくて大変いいことなのだが、一つだけ気になって仕方ないことがある。

「あのさ、戦士の名前が『ことみね』なのはなんでさ?」

「だって戦士にしとけば最前列でボコられるじゃない」

笑顔のままに言い切る遠坂。

当時から嫌われてたのか、言峰?

「確かお父さんでしたよ?『戦士をことみねにしろ』って言ったのは」

むしろ家族ぐるみで嫌われてたっぽかった。

「もういいわよね。電源、切るわよ?」

遠坂が電源を切ろうとしたその時、俺の脳裏にとても嫌な記憶が蘇る。

聞くだけで再プレイする気力を奪い、今までの努力を全て無に返す最悪のメロディ。

確かそれは――!!

「遠坂!待て!」

「え?」

――時、すでに遅し。

俺が声をかけると同時に、遠坂は電源を切ってしまっていた。

「なによ士郎、どうしたの?」

「……忘れたのか?」

「何を?」

やはりわかっていないらしい。

……自分が何をしてしまったのか。

「ファミコンはリセットボタン押しながら電源を切らないと記録が消えることがある」

「……!!」

「しかもかなり古いソフトだろ?ヤバイんじゃないか……?」

「う、嘘!」

慌てて再度電源を入れる遠坂。


デロデロデロデロデロデロデロデロデ〜ロン♪


呪われたような効果音。

そして、最悪の結果を告げる文字。


『ギャーーーーーー!!!』


叫び声をあげる遠坂と桜。

姉妹を繋ぐ思い出は、遠坂のうっかりによって一瞬にして儚く消え去ったのであった――。




悲しみにくれる姉妹を余所に、セイバーは必死にダンボールを漁り続けていた。

「どうだ、見つかったか?」

「いえ。しかしまだ半分――!?」

俺の問いかけに応える声が、奇妙に途切れた。

「これは……」

その手が一つのソフトを掴み、高々と掲げあげる。

「こ、これです!この絵、この形状、間違いありません!」

興奮気味に叫ぶセイバー。

「見つかったか、セイバー!」

「で、どんなゲームだったわけ?」

「これです!」

悲しみを乗り越えた遠坂と桜、そして俺の三人がそのソフトを覗き込む。


――覗き込むと同時に、硬直した。


「セ、セイバー……まさか……『それ』なのか?」

「そうですが?」

「『それ』って……確か……」

「ほとんど永遠に続くって聞いたことが……」

セイバーが手にするソフト。

ラベルには大きな幽霊とそれを退治せんとする冒険家の絵。

その上部にある、電源と連動した赤いランプで個性を演出。

そして主人公のひ弱さはゲーム界に燦然と輝くベスト・オブ・最弱。

なのに週回数は256というファミコン独自の疑似永久ループ。


「私はこの『スペランカー』だけが攻略できなかったのです。

 ようやく、過去の雪辱を晴らすことができます!」


やる気満々のセイバーだったが、それが敵わぬ戦いであることを俺たちは知っていた。

しかし嬉しそうなセイバーを目の前にしては彼女を止める事もできず。

お腹の赤ん坊に差し障りが出ないことだけを必死に祈るのであった……。







あとがき


MFLMKの第0話が行き詰ったので気晴らしに書いてみたら思わず書き上げてしまいました。

以前から構想はあったんですけどね。


かなり長くなったので、いくつか削ったネタがありますね。

例えば、凛の持ってたFF2は偶然会った当時の士郎から奪い取ったものだとか。

くにおくんの大運動会で対戦するサーヴァント達とか。

思い出に浸る藤ねえとか。


まあこれ以上長くなると最高記録更新しそうなんで、それはまた別の機会に。

(今までの最高記録はMFLMKの最終話)



それでは、今後ともヨロシク!!



web拍手設置しました。



SS一覧へ

インデックスへ