セイバーとアーチャーの愛娘、由乃が生まれて半年。

由乃はすくすくと順調に成長し、今ではお座りをするようになっていた。

さて、本日アーチャー、ライダーは仕事。

士郎・凛は所用で外出、桜は間桐邸の掃除へ。

よって現在、衛宮邸はセイバーと由乃の二人きりである。



































Mother,Father,Lover,and Married Knight

   外伝その2 『おうさまとあかんぼ』      by楓野









昼食前のこの時刻、由乃はすやすやと赤子の使命であるお昼寝の真っ最中。

セイバーは最近になって士郎に太鼓判を押された洗濯を終え、

由乃の様子を見つつお茶をすすっていた。

「――はて、おむつはまだあったでしょうか」

ふとオムツの在庫に気づいて立ち上がり、

買い置きのおむつを入れる戸棚を覗き込む。

「む、切らしてしまいましたか」

戸棚の中は空であり、残るおむつは朝に開けた一袋のみ。

戸棚を閉めたセイバーは、由乃が眠る居間近くの一室へと足を向けた。

音もなく障子を開き、由乃の枕元へと歩み寄った。

(……よく寝ているようですね)

買い物に連れて行くのにわざわざ起こすのは心苦しい。

しかしこの広い家の中に一人置いていくのはとても心配だ。

二律背反の中、娘の傍らで煙が出るほどに頭をフル回転させるセイバー。

そして導き出した答えは。

(全力で行き、全力で買い、全力で帰るしか!)

微妙にアバウトな答えだった。

再び音もなく廊下に出て障子を閉めると、無音の足捌きで玄関へと急ぐ。

最近乗り方をマスターした自転車に跨ると、

子供くらいなら吹き飛ばしそうな風圧を残してスタートダッシュを切った。

……玄関に鍵もかけずに。



それから数分後。

セイバーが走り去ったのとは逆の方向から、

我らがうっかり王こと英雄王ギルガメッシュがぶらぶらと歩いてきた。

由乃が生まれてからはカレンにこき使われていて寄り付く暇もなかったのだが、

本日ようやくカレンから逃げ出し、気まぐれにやってきたのだった。

「雑種、いるか」

チャイムも押さずに速攻で玄関を開ける英雄王。

靴を乱雑に脱ぎ捨てて、了承も取らずにずかずかと上がりこむ。

「おい、雑種!おらんのか!」

少し苛立った声を上げながら廊下を歩く。

すぱん、と小気味良い音を立てて居間の襖が開かれた。

「誰もおらんのか」

居間に入り込み、テレビを見る絶好の位置にどっかりと腰を下ろす。

「全く、王が足を運んだというのに無礼な奴らだ」

卓袱台に頬杖をついて愚痴る英雄王。

しばらくそうしてぶつぶつと呟いていたが、

やがて暇になったのか立ち上がって電源を入れる。

「まったく、この時間は面白いものがないな……」

番組の内容に文句を言いながら、チャンネルを変えていく。

「これでよいか……」

適当な番組でチャンネルを固定すると、頬杖をついたままそれを眺める。

数分も経った頃だろうか。

「ふぇぇぇぇ……」

由乃の泣く声が、ギルガメッシュの耳をかすかに突いた。

「…………」

だが、厄介ごとは御免とでも言いたいのか、

ギルガメッシュは構わずテレビを眺め続ける。

「ふぇぇぇぇぇ!ふぇぇぇぇぇ!!」

「ええい、やかましい!今行くから待っておれ!」

だが、元々短気な上に自分の邪魔をされるのは好かないギルガメッシュ、

すぐに立ち上がって足音も荒く由乃の居る部屋へと向かう。

「おい、泣くな!騒がしいぞ!」

障子を両手ですぱーんと開くと同時に由乃を叱り付ける。

しかし由乃がそれをわかるはずもなく、むしろ声量は上がるばかり。

「泣き止めといっておるであろうが!」

語気も荒く由乃に手を伸ばし、その体を抱えて宙に持ち上げ、

そのまま頭上高くまで持って行く。

……要するに、『たかいたかい』である。

「どうだ、高いであろう。貴様のような赤子には到底至れぬ高さだぞ」

「ふぇぇぇぇぇ!ふぇぇぇぇぇ!!」

「むう、王に対して不満を言うなど無礼な奴だ」

あやされ(?)てもまだ泣き続ける由乃に、ギルガメッシュが唇を尖らせる。

「下は……湿ってはおらぬようだな。腹が減っておるのか」

おむつが濡れていない事を確認したギルガメッシュは、

由乃を抱きかかえたまま台所へと歩き出す。

「まったく、何故我がこのようなことを……」



台所に着いたギルガメッシュは、やはり由乃を抱きかかえたまま、

片手で器用に粉ミルクを探して戸棚や冷蔵庫をさぐってゆく。

「……この家には粉ミルクの一つもないのか」

さっぱり目的のものが見当たらず、ギルガメッシュは首を傾げた。

ちなみに、粉ミルクの消費量は少ないもののきちんとある。

ただ単にうっかりが発動して見落としただけである。

実際には、一番最初に調べた棚にあったのだが。

「ふぇぇぇぇぇぇ!!」

「ああ、泣くな、しばし待て」

由乃を自分なりにあやしながら、ギルガメッシュは宝物庫への扉を開いた。

「たしかこの辺に……」

開いた扉に片手を突っ込みながら何かを探す。

十数秒ほどごそごそやっていたが、目的の物を見つけて手を引き抜く。

「うむ、これだ」

その手にあったのは、粉ミルク。

ギルガメッシュは知らぬことであったが、

それは由乃が飲んでいるものと同じ製品であった。

何故そんなものが宝物庫にあったのかは永遠の謎である。

「よし、賞味期限も切れてはおらんな」

さすが十年以上も現界しているだけあって細かい。

「……む、水ではダメなのか」

ついでに読んでいた作り方の一文に声を上げた。

粉ミルクは湯冷ましで作るのが基本である。

水道水やミネラルウォーターで作ると、お腹を壊すことがあるからだ。

「しかし、湯が冷めるのを待っているわけには……待て?」

何か思いついた風のギルガメッシュは、食器置き場にあったコップにお湯を注ぐ。

そして未だ開きっぱなしだった宝物庫の扉に再度手を突っ込み、

『冷気を生み出す宝具』を取り出した。

そこにあるだけで周囲の熱を奪うそれをコップの側に放置し、

数秒して宝具を取り上げ、宝物庫に投げ入れる。

「……まあ、こんなところであろう」

あっという間に湯冷ましの出来上がりである。

出来上がった湯冷ましを食器かごにあった哺乳瓶に注ぎ込み、

粉ミルクを分量通り入れて蓋をする。

「これでよし」

人肌というには微妙に温いが、立派なミルクの完成である。

それを振りながら、台所を後にして居間へと向かった。



「そら、飯だ。王の手料理を味わえるなどめったにないぞ」

相変わらず尊大なことを言いながら、由乃にミルクを与え始める。

乳首を口に含んだ由乃は、吐き出すようなこともなく大人しくミルクを飲み始めた。

「まったく、手間のかかる……」

ぶつくさ言いながらもしっかりやってしまう辺り律儀というかなんと言うか。

しばらくすると、満足したのか由乃が乳首から口を離す。

「なんだ、もうよいのか?」

それに答えるかのように、由乃はちいさなげっぷを漏らした。

その小さな手からギルガメッシュは哺乳瓶を取って卓袱台に置いた。

「さて、我はテレビの観賞に戻る。貴様は好きにするがよい」

そう言って、ギルガメッシュは側にあった座布団に由乃を横たえると、

片肘をついてテレビを眺める体勢に戻る。

が、すぐに腿を何かにぺしぺしと叩かれる。

「あー」

「なんだ、まだ何か用か」

目を向けると、寝返りを打った由乃がギルガメッシュの腿を叩いていた。

「用がないのなら呼ぶな」

また目をテレビに戻す。

「うー」

また腿を叩かれる。

「呼ぶなと言っておろう」

また戻す。

「あー」

また叩かれる。

「……なんだというのだ、貴様は」

呆れ顔で由乃に向き直るギルガメッシュ。

短気な彼が爆発しないのは、また泣かれるのが嫌だからだ。

由乃は構わずギルガメッシュの腿を叩き続ける。

単純に面白いのかもしれない。

ふと、ギルガメッシュは外に目をやった。

「……今日は、存外に暖かいな」

呟き、ギルガメッシュは再度由乃を抱え上げた。

「貴様は寝ろ。特別に付き添ってやる」

「あうー」

わかっているのかいないのか、ギルガメッシュの言葉に由乃が答える。

そのままギルガメッシュは縁側へと歩き、日当たりのいい場所を選んで胡坐をかいた。

由乃が落ちないように腹に腕を回して柱に背をもたれる。

秋という季節の割にはぽかぽかと暖かい日差しが降り注ぎ、

冷たさを感じさせない風が時折のんびりと吹き付ける。

だが、ギルガメッシュの意に反して由乃はどうにも落ち着かない。

「……子守唄がなければ寝られぬか。

 全く、我に詩人の真似事をさせようとは贅沢な奴だ」

呟き、子守唄というものを頭の中で検索するが該当する歌はない。

「我は子守唄など知らん。代わりに、我の国の歌を歌ってやろう。

 だからさっさと寝てしまうがよい」

そしてギルガメッシュは静かに歌いだした。

彼が王として君臨し、この時代ではすでに失われた彼の国で歌われた歌。

王を称え、国の繁栄を願い、安らかな生を願う歌。

ゆっくりと低い声で歌われるその歌は、次第に、次第に由乃を眠りへと誘う。

歌が一区切りつく頃には、由乃はギルガメッシュの腕の中ですやすやと眠っていた。

「ようやく寝たか……手間のかかる」

ふあ、と大きなあくび。

「……まったく雑種どもめ、どこをほっつき歩いている」

言いながらも、彼の瞼は徐々に下がり始めていた。

(まったく、どいつもこいつも無礼な奴らだ……)



所変わって玄関前。

「……セイバー?」

疲労困憊といった様子で自転車を漕ぐセイバーを遠目に見つけて、

士郎と凛は入ろうとした足を止めた。

自転車は衛宮邸の前で止まり、降りたセイバーは荒い息を吐く。

「どうしたのよ、そんなに疲れて」

「お、おむつを買いに出たのですが……行く先々でなぜか売り切れていまして。

 最終的には新都まで行くことに……」

無論、全速力で。

「そりゃ疲れるよな……ご苦労さま」

玄関の戸をくぐりながら、凛は由乃の姿がないことに気づく。

「セイバー、由乃は?」

「よく寝ていたので置いていったのですが……。

 今考えれば連れて行ったほうがよかった気もします」

「じゃあ、そろそろお腹空いて泣いてるんじゃないか?」

「でも泣き声、聞こえてこないわよ」

凛の言葉に耳を済ませてみるも、由乃の泣く声は聞こえない。

「まだ寝てるのか?」

「どうかしら。それはないと思うんだけど」

話しながら士郎と凛は居間へ、セイバーは由乃の寝ているはずの部屋へと向かう。

少しして、セイバーが慌てて部屋から飛び出してきた。

「シ、シロウ!リン!由乃がベッドに居ませ――」

「「シーーーッ」」

まくし立てようとするセイバーに、士郎と凛が口に人差し指を当てて制する。

「何故です!由乃が居ないというのに――」

「セイバー、あれ」

凛が指差す縁側をいぶかしみながら見るセイバー。

その顔色が、ハッとしたように変わる。

「……なんと」

「ね?」

呆然とセイバーが呟き、凛が楽しそうに笑う。

そこには、柱にもたれて眠るギルガメッシュと、

彼の腕の中で安心したように眠る由乃の姿があった。

「ミルクもそこにあるわ。金ぴかがやってくれたみたいね」

卓袱台の上を指差しながら、凛。

「しかし何故ギルガメッシュが由乃を……」

「案外、子供好きだからなコイツ……でも、意外と絵になるなあ」

「そうね……写真撮っとく?」

「ダメです。由乃をあのような男と写真に写すなど許せません」

凛が指で四角を作って覗き込むが、セイバーは断固反対の様子。

「でも、あれよ?結婚できる年齢になって、

 『ギルと結婚したいー』なんて言い出したらどうするの?」

「絶対に許しません。ええ、この手を血に染めてでも」

「真顔で怖いこと言わないでくれセイバー……」

ひそひそと話し続ける士郎達。

その視線の先で、眠り続ける王様と赤子。




その赤子が母親の特徴を受け継いだ美女に成長し、

凛の予言どおりのことを言ったかどうかは――まだ、先のこと。







あとがき


というわけでギルガメッシュ主役の短編。

普段のバカノリでは『ギル』ですが、今回は『ギルガメッシュ』で統一しました。


ギルガメッシュと由乃の相性は悪くないってのが前から頭にあったので、

まあそれで一本書こうと思ってできたこの話。

なんだかんだで粉ミルクとか調べるハメになりましたけどね。てへ。


こんなんギルガメッシュじゃねえって言う人も居るかもしれませんが、

まあうちのサイト限定でギルはこういう人なんだと思ってくだされば幸いです。


次回は宝石翁が連れてきた子の話。

久しぶりにバカフルスロットルでお送りいたします。


それでは、今後ともヨロシク!!



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