……目を覚ますと、鎖でぐるぐる巻きのまま後部座席に乗せられていた。

「む、目が醒めたか雑種」

「ああ、なんとか……おわっ!?

ギルガメッシュの声に答えながら隣の席に目をやって、思わず叫ぶ。

ボコボコにされたランサーが、車の外側に身を乗り出したままぐったりしているのだ。

車が走る振動にあわせて、ときおりぶらぶら揺れるのがなんか怖い。

「おい、ランサーどうしたんだよ?」

「ああ、先程煙草の吸殻を道路に捨てたというのでな。

  フェイカーが指導と称して折檻しておったぞ」

「貴様もそうなりたくなくば社会マナーは守ることだな」

などと事も無げに言う助手席のギルガメッシュと運転席のアーチャーに、更なる不安を覚えるのであった。


















ふぁて遊記

2.『布石(備えあれば憂いなし、だけど所詮は一時しのぎ?)


















そんな俺の不安をよそに、ジープはスイスイと公道を走ってゆく。

アーチャーは割と運転に慣れているらしく、危なげもなくハンドルを操っている。

「アーチャー、お前免許持ってたのか?」

「フッ、そうだな。持っていたと言えば持っていたか」

なにやら皮肉気に笑うアーチャー。

その態度に急に不安になって、

「……免許、あるんだよな?」

と尋ねると、

「無論だ」

と答えた。

「いつ取ったんだ?」

「生前、免許は取ったのだが持ってこれるはずもないからな。

  現在所持しているのは凛に渡された偽造免許証だ」


「偽造かよオイ!!」


「運転技術に問題がないのだからかまわんだろう」

「ンなわけあるか!!社会マナーはどうしたテメェ!!」

「それはそれ、これはこれだ」

「うわムカつく返答!!」

やっぱコイツとは合わねえ!

つか帰りたい!

コイツといたらストレスによる胃潰瘍で入院する!

「おいギルガメッシュ!この鎖解けよ!!」

「王に命令するな、無礼者が」

「そもそも解いた瞬間車から飛び降りてでも逃げるだろうが貴様は」

当然ながら読まれてるし。

あー、もう遠坂でも桜でもライダーでも藤ねえでもカレンでも誰でもいい!

偶然通りかかって助けてくれないかなもう!

「ああ、助けを期待しても無駄だ。

  わざわざ遠回りして彼女らの通りそうなルートを避けているのだからな」

そこまでして嫌がらせしたいんかコイツは。

そしてどうすることもできずに公道を走ること約十分。

「着いたぞランサー、起きろ」

「っ……てぇ……」

アーチャーに声をかけられ、ぐったりしていたランサーが頭を振りながら身を起こした。

「ちったぁ手加減しやがれアーチャー……」

「貴様が道端に吸殻を捨てるなどという真似をするからだろうが。

  煙草はふやけて百のゴミになるのだぞ?」

「わーったよ……んじゃ、行ってくらあ」

言いつつ車のドアを飛び越して歩道に降り、ふらふらと歩いていくランサー。

「ドアくらい開けて降りればいいだろうに……」

「おい、ランサー何しに行ったんだ?つーかここって……」

「気づいておらんかったのか、雑種。ここは貴様も来た事のある場所だろうに」

そう、えらく遠回りしてたどり着いた場所。

ここは、俺にとっても馴染み深い柳洞寺の石段前であった―――。



なんら苦もなく石段を登りきり、

「おーい、小次郎」

と声を上げるランサー。

「ランサーか。何用だ?」

地面を掃く箒を止め、ランサーに顔を向けるアサシン、小次郎。

理由は不明だが山門から離れることができるようになったものの、

結局やることも見つからずに日々こうして掃除や雑用などして過ごしているのであった。

「実はよ、今から男だけで旅に出ようと思ってな」

「ほう、それはまた優雅な」

箒を肩に担ぎ、片目を閉じて笑う小次郎。

「それでだ。セイバー達には何も言わねえで行くからよ。

  もしあいつらが情報を集めに来たら適当に撹乱してくれねえか?

  そうだな、俺の故郷を見に行ったとでも伝えてくれりゃいい」

「ふむ……いいだろう。その代わりといってはなんだが……」

「おうよ、タダとは言わねえ。

  この新潟の銘酒越乃寒梅でどうだ?」

と、何処に隠し持っていたのか一升瓶を取り出す。

「よかろう。できるだけ彼女らの手が回らぬよう尽力しよう」

言いつつ、一升瓶を受け取ってホクホク顔の小次郎。

今夜は、宗一郎と月見酒だ。

「で、キャスターはどうよ?腹のガキはでかくなったか?」

「大分育っていたな。医者の診たところでも問題ないとのことだ」

4ヶ月ほど前のこと。

キャスター御懐妊という信じられないような吉報が英霊達とそのマスターに知れ渡った。

現在妊娠六ヶ月、母子共に問題なく出産の時を待っているのだった。

「そうか。まあ、生まれる前には帰ってくるからよ。

  生まれたら、祝いの品でも贈ってやるって言っといてくれ」

「心得た。良い旅をな」

「おう、んじゃな!」

振り返りながら片手を挙げ、来たときと変わらぬ速度で石段を降りていくランサー。

「ふむ……」

とりあえず、一升瓶を置くついでにランサーからの言伝をマスターに伝えようかと考えつつ、

母屋へと足を向ける小次郎であった。



時間はちょっと戻ってランサーが石段を登り始めた直後。

「しかしフェイカーよ。

  このまま雑種を鎖で巻いたままでは目立つのではないか?」

ギルガメッシュがそんなことを言い出した。

「逃がさんためには仕方ないだろう。

  ……とはいえ、どのみち冬木を出ても鎖をといた瞬間逃げ出すのはわかっているな」

「ならば今のうちに逃げられないよう手を打っておくべきではないのか?」

「そうだな……」

そういうと、アーチャーは車を降りて後部座席の横まで歩いてきた。

手を伸ばせば、簡単に俺に手が届く距離だ。

「何する気だ、アーチャー」

「なに、ちょっとした投影だ……投影、開始トレース、オン

アーチャーが呪文を唱えるとほぼ同時に、その手の中に一振りの短剣が現れる。

稲妻のような、お世辞にも良く切れそうとは言えない刀身を持つその剣。

「ルールブレイカー?」

「む?契約破りの短剣なぞ出して何をする気だ?」

俺とギルガメッシュの頭の上に『?』が浮かんだ。

アーチャーが投影したのはルールブレイカー。

それでは俺を逃げられないようにするってのは無理なんじゃ?

「これはオリジナルそのままではない。

  私が独自のアレンジを加えたものだ。

  本来なら『あらゆる魔術による影響を作られる前に戻す』というものだが、これは逆だ。

  『あらゆる魔術による影響を作り出す』。

  つまり、使う本人にそのような技能がなくとも呪いをかけられるというわけだ」

「ほう、なかなか良いではないか。

  終わったら我に献上せよ、フェイカー。

  贋作とはいえ、なかなかに面白い」

ギルガメッシュさえ認めるそのスゴさ。

ってちょっと待て、それってもしかして死の呪いとかかけられるってことですか俺ー!?

「安心しろ。これは投影した上にアレンジを加えたために制限がある。

  人を死に至らしめたり傷を負わせるような呪いはかけられん」

よかった!ホントによかった!

さすがに死の恐怖に怯えながら旅をしたりしたくありません。

「というわけで、貴様には『服が着られなくなる』という呪いをかけてやろう」

むっちゃイイ笑顔でほざいてくれるアーチャー。

っていうかどんな呪いだソレ!!

「我々の許可なく衛宮邸に立ち入った瞬間、身に着けている衣類が全て崩壊する。

  それだけではなく、どんな衣類でも身につけた途端に崩壊するようになるのだ」


「地味だな!!」


けど、逃走防止には効果的かもしれない。

なにしろ服が着られないんじゃ学校はおろか何処にも行けない。

最悪の場合、帰った瞬間にセイバーにエクスカリバーだ。

「なかなか面白い趣向ではないか、フェイカー」

「フッ。では、さくさく行こうか。ふんっ!!」



ぷす。



「痛い!!」






遵守すべき偽りの符ルールブレイカー!!」






カッ!!






アーチャーの声と共に、刺さった刀身から光が溢れて俺にまとわり付く。

光が完全に俺を包み込むと、徐々にその強さを弱め、最終的には俺に吸い込まれるようにして消え去った。

「これでよし」

なんて満足そうに言って運転席に戻るアーチャー。

「ふむ、宝物庫に放り込んでおくか。雑種。鎖は解いてやるぞ」

ルールブレイカー(偽)を王の財宝ゲートオブバビロンに納めながら鎖を解くギルガメッシュ。

「おーい、用は済んだぜ」

ちょうど帰ってきたらしく、後部座席に乗り込んでくるランサー。



……こうして、俺は逃走することもできず、この珍道中に付き合うハメになったのだった……。





あとがき

小次郎、難しいっス。



感想なんかありましたらどうぞ。


Next

Back

SS一覧へ

インデックスへ