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二条乃梨子の恋人・1
ある日の放課後、鞄に教科書やノートを詰め込む乃梨子さんに声をかけました。
「乃梨子、今日はどうなさいますの?」
「どうって、薔薇の館に……あ、今日はないんだっけ?」
お姉さまはお風邪で、由乃さまはご親戚に不幸があったとのことでお二人ともお休みとのこと。
志摩子さまも本日は委員会があるとのことですので、本日は特に予定はないのでした。
「もし予定がないのでしたら、ミルクホールでお話いたしませんか?」
「OK、いいよ」
そう言って、乃梨子さんは鞄を手に立ち上がりました。
「うふふふふ。実は前々から共学の学校に興味がありましたの」
「あ〜……でもわたしの中学も結構特殊だったしなぁ……」
乃梨子は少しの間考え込んで、
「あ、そうだ」
何か思いついたように呟くと、乃梨子さんは教室の奥へと歩いていきました。
「可南子ー」
「乃梨子?どうしたの?」
乃梨子さんが声をかけたのは、可南子さんでした。
そういえば、可南子さんも共学の出身でしたわね。
「瞳子がさ、共学の学校の話聞きたいらしくて。ミルクホールで、どう?」
「いいわよ。今日は部活もないし」
「体育館使用禁止だっけ?」
「ええ。今さらながらにアスベスt「OK、そこでストップ」」
なにやらヤバげな単語が聞こえた気がしますがスルー致しましょう。
乃梨子さんは、可南子さんを従えて戻ってきました。
「ということで、いいかな?三人で」
「ええ、構いませんわ」
言葉は悪いですけどサンプルが増えるのはありがたいことですし。
ただ、この三人で歩いていると人目を引くのが厄介なのですけど。
「……?」
「どうかしたの?乃梨子」
怪訝そうな顔を廊下のほうに向ける乃梨子さんに、可南子さんが声をかけました。
「いや……なんか、騒がしくない?」
「言われてみれば……そうですわね」
私たちはまだ扉の閉まった教室内にいるというのに、廊下で騒ぐ黄色い声が耳に届きます。
「なんだろう……二人とも、なんかやった?」
「どうして私たちなんですの」
「むしろ騒がれるのは乃梨子でしょう?白薔薇の蕾だもの」
ですが、今更乃梨子さんが騒がれるというのも時期外れですわね。
首を傾げつつ教室の扉を開けると、そこでは十数人の方達が騒いでいらっしゃいました。
所々から聞こえる『あの方』や『素敵な方』という言葉から、
特定の誰かのお話をしているのだと思うのですけど……
ああ、ダメ!!気になりますわ!!
「私、聞いてまいりますわ」
「待った。私たちもいくよ」
乃梨子さんと可南子さんを背後に従えて廊下の集団に歩み寄ります。
「どうかなさいましたの?」
「まあ、瞳子さん!今、校門前にとても素敵な男性がおられるそうなんですの!」
素敵な男性……?優お兄様かしら?
「赤い大きなバイクに寄りかかって、タバコをこう横ぐわえになさって……」
「少々ワイルドな印象でしたけどそこが魅力的なんです!!」
「金髪の似合う男性って、いるものなのですね……」
「いつぞやの王子様も素敵でしたけど、あの方も劣らずでしたわ〜!」
なんというか、すごい騒ぎですわ。
でも話を聞く限りでは、優お兄様ではないようですわね。
「誰か人をお待ちになられているようでしたわね」
「ああ、一体どなたなのかしら、あの方の待ち人というのは……」
そんなに素敵なのでしょうか?
ちょっと興味が沸いてきましたわね。
「瞳子、そろそろいい?」
「乃梨子」
「……ちょっと。そのキラキラした目はなに?」
ちょっと気圧されたかのように背筋を反らす乃梨子さん。
そんなにキラキラしていたのでしょうか?
「ほら、ミルクホール行くよ」
そう言うと、乃梨子さんは私の手首をつかんで歩き出しました。
「ちょ、ちょっと乃梨子?噂の男性は見に行かれませんの?」
「興味ないし。可南子は?」
「私もあまり。元々男性は気にならないから」
「2対1。はい、ミルクホール行くよ」
私の手首をつかんだままズンズンと進んでゆく乃梨子さん。
「ただ……」
「?」
可南子さんの呟きに、乃梨子さんの足が止まりました。
私の腕は掴まれたままですけれど。
「乃梨子、あなた噂の男性に心当たりがあるんじゃない?」
「………」
「黙り込むということはビンゴ、かしら」
「Hahahahaha、ナニヲ根拠ニソンナコトヲ」
「口調がアメリカ人みたいになってますわよ」
「しかもエセっぽいわね」
乃梨子さんの表情はやたらいい笑顔でしたけど。
なにもこんなところで輝く笑顔をみせなくてもいいでしょうに。
「大体、どうしてそう思うの?」
「なんとなくね。無理に瞳子を引っ張っていこうとしてるように見えたし」
「気のせいだって」
「そうとは思えなかったけど……」
まあいいか、と呟いて再び歩き出す可南子さん。
どうしてそこでもっと食いつかないんですの!!
と、心の中で憤っていると。
「白薔薇の蕾!」
数人の同学年の方達がパタパタと走ってきます。
「校門で、彼氏と名乗る男性がお待ちです!!」

「ブッフゥーーーーーーッッッ!!!!!」

乃梨子さんがものすごい勢いで噴き出しました。
何か液体を口に含んでいれば、それはもう見事な虹ができただろうと思われます。
「乃梨子……」
「やはり心当たりがあったんですわね?」
「いや……まあそうなんだけど……」
珍しくうろたえているようですわね。
ここは一つ、可南子さんにアイコンタクトを。
「乃梨子の彼氏さんでしたら是非ともご挨拶をしなくては。ねえ可南子さん?(キュピ〜ン)」
「そうですね、まいりましょうか瞳子さん?(キュピ〜ン)」
アイコンタクト成功ですわね。
「賛成2、よって可決ですわね」
「それじゃあいきましょうか、ミルクホールをキャンセルして校門に」
私と可南子さんが乃梨子さんの腕を取ろうと手を伸ばすと、
「う……」
サッ、と乃梨子さんはその手をかわし、

「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

叫び声を上げながら、玄関に向かって猛然と走り出したのでした。
ってのんきに実況している場合ではありませんわ!!
「追いましょう、可南子!!」
「ええ!!」
お互いに頷くが早いか、私と可南子さんは走り出しました。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないようにゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
ですが、今だけはそれすら忘れてひたすら乃梨子さんを追うのでした。
だって……


こんな面白そうなこと放っておけないではありませんか!!





*あとがき*
椿組の三人が仲良いのが好きでこうなりました。
一応、三人ともお互いを呼び捨てにする仲という設定。
ただ、一人称が瞳子なので地の文ではさん付けです。
どうも瞳子の一人称でさんを取ると、瞳子っぽくならなかったんですよ。
がちゃSに投稿したモノから、セリフとか少し改訂。
なんとなく可南子の口調がつかめてきたか、な?