紅魔館間借り生活・1                          by楓野


ひどく落ち込んだ顔つきで鈴仙は言う。 「いつかこんなことになるんじゃないかと思ってました……」 地面に大の字に倒れ付したてゐは言う。 「ぜはー……!ぜはー……っ!縮んだ……っ!確実に……っ!寿命……っ!」 なんかあんまり普段と変わらなく見える永琳は言う。 「あらあら、困ったものねえ」 頬を膨らませてそっぽを向いた輝夜は言う。 「私が悪いんじゃないもん。悪いのもこたんだもん」 何があったのか端的に言おう。 永遠亭が全焼しました。 事の起こりは、真昼間から妹紅が輝夜に殴り込みをかけたことに始まる。 ここ数日輝夜の陰湿な奇襲(主に食事・入浴・用便時)を受け続けていた妹紅は、 健気にもすがりつこうとするイナバたちを優しく布団部屋に押し込み、 立ちふさがった鈴仙をヤクザキック一発で蹴散らし、 ちょっと道に迷った時には通りかかったてゐに道を教えてもらいつつ、 輝夜の部屋だと思って開けた障子が実は永琳の私室で、 着替え中の永琳のあられもない姿をばっちり目撃するという少年誌的アクシデントを踏まえながら、 輝夜の私室にようやく辿り着いた彼女は、 その怒りを術に乗せるかのように炎を撒き散らして大暴れした。 そこまでなら輝夜の私室が全快するくらいで済んだのだろうが、 輝夜が近年稀に見る超反応で不死鳥背負った妹紅を吹っ飛ばしたのがまずかった。 輝夜の長い蓬莱人生でも最高のタイガーアッパーカットをカウンターで食らった妹紅は、 屋根を突き破って天高くまでいささか不恰好に舞い上がった。 衝撃で体勢を立て直すこともできない妹紅は重力に引かれ、 放物線を描いてまた屋根を突き破って永遠亭に再突入。 問題は、その着地点が危険物・劇薬満載の『八意永琳ヒ☆ミ☆ツ薬品庫』だったことである。 不死鳥の炎は薬品庫の可燃性薬品に引火して大爆発を起こした。 さらに不運は重なるもので、単体ではそれほどでもない可燃性薬品が、 保存容器が破損して図ったかのように妹紅に降り注ぎ、 中途半端に混ざり合って熱された薬品は摩訶不思議なステキ変質を起こし、 可燃性が『倍率ドン、さらに倍!』×『倍プッシュだ……!!』的なことになった上に 薬品が次々と気化して永遠亭中に大散布された。 結果⇒幻想郷史上類を見ない爆発事故が発生。 薬品庫を火元とした大火災はあっという間に永遠亭全域に広がり、 普段は能天気な永遠亭の住民たちもこの時ばかりは大騒ぎとなった。 逃げ惑うイナバ、爆発の余波で飛ばされるイナバ、なぜか布団を持ち出そうとするイナバ。 また、一部のイナバ達は永琳によってタライに詰め込まれ、それごと抱えられて脱出した。 耳の先っちょをちょっと焼かれた鈴仙を筆頭とする精鋭イナバ部隊が 必死に消火活動を試みたのだが、それもむなしく、 建造物としての永遠亭は、わずか一時間ほどでその長い歴史に終止符を打った。 そして冒頭へと繋がるわけである。 幸いにも重傷者・死者を一人も出すこと無く、永遠亭住民は残らず避難を完了した。 『これだけの災害で死傷者が出なかったのは正に奇跡だ』と後日けーねが言ってたそうな。 ちなみに元・薬品庫であった辺りには黒焦げになった妹紅が、 炭となって崩落した天井に押し潰されているのだがそれは死者には数えないらしい。 まあ、放っておけばリザレクションするし。 「さて、これからどうしようかしら」 残骸となった永遠亭を眺めつつ、永琳が呟いた。 「そうですねえ……」 妙に遠い目をしつつ、達観した様子で鈴仙が答えた。 「とりあえず、姫様に皆のストレスの捌け口として袋叩きになってもらいましょう」 「え、ちょっと。何怖いことサラリと言ってんのイナバさん」 僅かな間に住所不定の身分となったことに絶望しているのか、 鈴仙は軽く狂気の領域に足を踏み入れていた。 思わず輝夜が鈴仙相手にさん付けになっていた。 「ダメよウドンゲ。二、三回はリザレクションしてもらいましょう」 「永琳までェェェ!?」 更には永琳もキレていた。 恐ろしいことを普段と変わらぬ笑顔でサラリと言い切る。 「あの、ホント勘弁して下さい。焼き土下座でもネチョでも何でもやりますんで」 プライド・カリスマ・その他諸々全て投げ捨て、輝夜は光速で土下座した。 地にめりこめとばかりに頭を下げる……というか、既に軽く地面が凹んでいた。 その姿を見た永琳は、主の情けなさか単なる気分転換か、ふうっ、とため息をつく。 「その辺りは後で考えるとして」 「あ、許してはくれないのね」 と言いつつ土下座をやめてさっさと立ち上がる輝夜であった。 「差し当たっては、永遠亭をどう再建するか、ね」 「幸い、てゐのおかげで財産はほぼ全て持ち出せましたからね」 鈴仙のその言葉に、三人は未だ地面に大の字で転がるてゐに視線を向けた。 イナバたちがわらわらと心配そうに群がるその体の傍らに、 てゐ本人の数倍はありそうな風呂敷包みがデン、と鎮座している。 あの大火災に気づくや否や、てゐは真っ先に財産の大部分が収められた大金庫へと向かい、 河童謹製最新式大金庫の扉を健康生活の中で習得した太極拳で粉砕し、 そこにあった現金やらお宝やらを全て風呂敷包みに詰め込み、 自分よりはるかに大きく重いそれを担いで燃え盛る永遠亭の中を爆走したのである。 その結果、永遠亭の財産はその殆どが焼失することなく、外に運び出されたと言うわけである。 てゐ自身は、ただでさえ健康のために普段使わないようにしている力を、 火事場のバカ力で限界まで絞り出したために地面にぶっ倒れているのだが。 「う、うう……そこにおわすは大国主さま……?」 多少シャレにならないうわ言を呟くてゐ。 「あの〜、師匠。てゐがなんか神様に謁見してるみたいなんですけど」 「幻想郷に生きているなら神様にも会うわよ」 具体的には守矢の神様とか。 「でも永琳」 「なんですか姫様?」 「再建するのはいいけど、大分時間かかっちゃうんじゃないの?」 輝夜の指摘ももっともである。 元々永遠亭の敷地は広く、さらに侵入者が迷うほど複雑な構造をしていたのだ。 それを再建するとなれば、良くて数年、場合によっては数十年かかることもありうる。 いくらなんでもそんな長い間根無し草でいるわけにもいかない。 「ふむ……」 永琳は腕組みをして、永遠亭の残骸を見ながらじっと考え込む。 ややあって、ふと顔を上げた時にその目にあるものが写る。 月だ。 昼間でも月が薄く見える時があるが、永琳が見たのは正にそれ。 左半分を地上に晒した、半月、あるいは二十三日月とも呼ばれる月を見た永琳は、 一つ大きく自信有り気に頷いて腕組みを解いた。 「なるほど」 「何か思いついたんですか?」 顔を覗き込んでくる鈴仙に、永琳はウインクで答えた。 「大丈夫。この方法なら二十日ほどで再建できるわ」 『二十日!?』 示された時間の短さに、鈴仙と輝夜は同時に驚きの声を上げた。 「少し交渉が必要だけど……まあ、十中八九上手くいくわ」 「一体どんな方法なのよ?」 「それは後で教えてあげますわ、姫様。  さて、再建の目処も立ったことだし、それまでの宿を探さないとね」 「宿って……こんな大所帯を二十日も泊めてくれるとこなんてありませんよ」 というか、幻想郷に宿屋自体あるのか疑問である。 「あるじゃないの。幾らでも広くできて、施設も整ったところが」 さー行くわよーとイナバたちに声をかけつつ、 永琳はまだぶっ倒れたままのてゐを背負い、先頭を切って歩き出す。 輝夜は楽しそうにイナバたちに囲まれながらその後を追い、 鈴仙は不思議そうな顔でてゐの代わりに風呂敷包みを持っていこうとして、 グキッ、と腰から致命的な音がした。 「ちょっ……師匠……っ!姫様……っ!腰……ッ!腰が……っ!!」 既に竹林に入っている永琳と輝夜に向けて鈴仙は声を上げるが、二人が気づく様子は無い。 結局、鈴仙の異常に気がついて永琳たちが戻ってくるまでに数分を要した。 その後、輝夜がてゐを、永琳が鈴仙を背負い、 風呂敷包みはイナバたちが細かく分配して持っていくことになり、 ようやく一行は竹林を後にしたのだった。 ―――さらに数十分後。 もはや誰もいない永遠亭の廃墟。 その一画がガタリ、と音を立てて揺らいだ。 一度揺らいだその場所は、二度、三度と揺らぐたびにその揺らぎを大きくしてゆく。 そして一際大きくガゴン、と揺らいだ次の瞬間、 『リザレクショォォォォォォォォォォォン!!』 咆哮と共に火柱が上がり、廃墟の一部を豪快に吹き飛ばした。 その火柱が消えた後に現れたのは、最初の大爆発で体が四散し、ようやく復活した妹紅である。 厳密には、爆発の外傷からはとっくに復活していたのだが、 瓦礫に押し潰されたままだったために復活する傍から圧死していたのだった。 「あー、久々に死にまくった」 瓦礫の上に立ち上がってゴキゴキと首を鳴らす妹紅。 復活から圧死までの僅かな時間差を利用し、少しずつ少しずつ瓦礫を破壊していくという、 不死でなければ不可能な自己レスキュー法を妹紅は実践してみせたのである。 「さーて、ちょっと手間取ったけど輝夜をぶっ殺し…に……」 一息ついてあたりを見渡すも、妹紅の目に映るのは一面の瓦礫。 右を向いても左を向いても、焼け跡、焼け跡、焼け跡だらけ。 呆気にとられて立ち尽くす妹紅の心情を表すかのように風が吹き、白い髪を揺らす。 「……どゆこと?」 その呟きにツッコミを入れたく思ったか、炭化した梁が落下し、 妹紅の頭に当たってゴン、となかなか良い音を立てた。
あとがき

初めて創想話に投稿した話。 そのくせして完成してない典型的な初心者orz。 とっとと完成させないとなー。 タライに詰め込まれるイナバ達が妙に気に入ってます。

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